工藤美代子氏が記した副題近衛文麿と天皇という本です。
積極性には欠けているように見えるけれども、消極的な強さに至っては、この仁くらい強い人も在るまいと思うと近衛公を褒めています。戦後の米国側からの調書に関しても、他人を貶めることなく潔い受け答えをしていました。
それにしても、驚くべきことは、この戦争前後のクレムリンの躍動です。
張作霖爆殺は一般的には日本軍が実行したとされていましたが、ソ連情報機関の資料から最近明らかになったところによると、実際にはスターリンの命令に基づいてある人物が計画し、日本の仕業に見せかけたらしいとの話が紹介されていました。少なくとも、張作霖爆殺事件に始まる満州事変から1次、2次上海事変、さらにゾルゲ事件へ至る過程にスターリンの手が入らなかったものはないという可能性を知った上で、われわれは昭和の激動を見てゆかなければならないだろうと結んでいました。
さらに、日本が追い詰められて、日本が開戦に踏み切るきっかけとなった、ハル・ノートを起案した人物はソ連KGBのスパイであったという驚くべきクレムリンの情報工作も紹介していました。
マッカーサーの直属の部下であったハーバート・ノーマンも1952年に米国上院の司法委員会の報告によってソ連のスパイであった可能性を指摘されているが、彼の影響で共産主義の嫌いな近衛公の戦争責任を故意に歪めた可能性も指摘していました。
まさに、米ソの情報工作の中で踊らされた日本の構図を垣間見させられた作品でした。