呉座勇一氏の「応仁の乱」は面白く読みました。室町幕府を支えるはずの武家集団が二分されて京都を中心に近畿一帯で収束の見えない混乱の様相を深める様を、奈良の興福寺の別当二人の日記を通じて読み解いている手法がユニークでした。
現在の世界情勢と、場所もスケールも異にしながら、出口の見えない混迷状況が似ていることから、読者の興味を掻き立てた読み物となったようで、この手の歴史もの新書には珍しくベストセラーとなりました。
応仁の乱が招いた社会混乱は、浄土真宗(一向宗)とも結びついて、各地で衰退する地頭に対抗した農民自警集団の一揆を引き起こしましたし、やがて九州では既得権擁護の既存の仏教に救いを求められない最下層の民の多くがイエズス会伝道師によって入信することになりました。九州のキリシタン大名として有名な豊後の大友氏、長崎の有馬氏、肥前の大村氏等は、宗教というより、むしろポルトガル領マカオとの交易(日本の銀と中国の生糸の仲介をポルトガル商人が行っていた)に興味があったという側面も否定できません。
話が九州に飛んだついででいうと、北方健三の「望郷の道(上)」も面白く読みました。唐津生まれの北方氏が描くこの小説の主な舞台は佐賀県なのですが、主人公の正太は筑豊の川筋者を束ねる石炭等を北九州に運ぶ船運送を営む家の三男坊です。
福岡県は4つのブロックに分かれています。
東から順に、北九州、筑豊、福岡、その南の筑後です。
北方健三の描いた、「望郷の道(上)」の冒頭に登場する筑豊の川筋者や佐賀の賭場のエピソードは、昔読んだ、五木寛之の「青春の門」を彷彿させるものがありました。
主人公の伊吹信介の亡くなった親父が刺青者で、信介はその縁でヤクザの親分に育てられる、筑豊篇から大河小説「青春の門」が始まりました。1969年から始まったこの小説は、1994年の第8部の風雲篇まで断続的に連載されていましたが、2017年より23年ぶりに第9部の漂流篇が再開されました。その単行本は2019年の9月26日に遂に発売されました。
2020年1月現在、御年87歳の五木寛之さんが、最新作漂流篇で30歳目前の伊吹信介の、「青春の門」をどのように完結させてくれるのだろうか。
北方健三の筑豊弁、佐賀弁での任侠言葉が飛び交う「望郷の道」を読みながら、五木寛之の最新作「青春の門 漂流篇」がとても気になることでした。
読書(4冊)
* 読書「応仁の乱 戦国時代を生んだ大乱」呉座勇一
[ 2019-12 -16 10:43 ]
* 読書「ローマ人の物語14巻_パクス・ロマーナ(上)」塩野 七生_初代皇帝アウグストゥスのパックス・ロマーナ大作戦
[ 2019-12 -17 13:00 ]
* 読書「運命のコイン(上)」_「ケインとアベル」の出来に比べてイマイチでした。
[ 2019-12 -18 09:10 ]
* 読書「望郷の道(上)」北方健三_日経新聞連載の任侠小説家と思いびっくりしました。正太がかっこよすぎ!
[ 2019-12 -19 08:54 ]
映画は、「アイリッシュマン」がよかったです。
イタリア人より先に、南北戦争前のジャガイモ飢饉で100万人を超える移住を済ませていたアイルランド人に米国のブルーカラーの仕事の多くが占拠されたと言われています。
冗談でしょうが、消防士や警察官も圧倒的にアイルランド出身者が多く、後から来たイタリア人はマフィアにならざるを得なかったとか。
マフィアの世界では、この上下関係は真逆のようです。
「アイリッシュマン」同様、マーティン・スコセッシ監督とロバート・デニーロが組んで制作された「グッドフェローズ」では、マフィアの幹部になるにはイタリア系であることが不文律であることが語られていました。
ユダヤ系もアイリッシュ系も鉄砲玉として、あるいは金儲けの才を重宝がられることはあっても、結束力の強いイタリア系で固められたマフィアの上層部の一員に歓迎されることはなかったということです。(ゴッドファーザーⅡでは大物のユダヤ系マフィアが登場していた記憶があるのですが・・・)
やはりマーティン・スコセッシ監督とロバート・デニーロ主演の「カジノ」では、トラック運転手組合からの低利の融資をマフィアが、ラスベガスのカジノ業界に投資して荒稼ぎしていた構図が印象的でしたが、この「アイリッシュマン」では、カリスマ性を持った全米トラック運転手組合(チームスター)委員長のジミー・ホッファ(アル・パチーノ)のマフィアとの関わり、生き様、当時の司法長官ロバート・ケネディとの確執、そして彼の謎の失踪にまで迫った物語となっていました。
ジョン・F・ケネディ大統領の暗殺の裏にマフィアの関与を強く匂わせる物語の展開も不気味な感じでした。
映画(2本)
* 映画「アイリッシュマン」_背中で泣いてる唐獅子牡丹?ちょっと東映の任侠映画とイメージが重なってしまいました!
[ 2019-12 -11 10:44 ]
* 映画「ラスト・クリスマス」_新しいクリスマス・ドラマの古典の誕生か?
[ 2019-12 -25 12:30 ]
総括
* 2019年11月の読書と映画の総括
[ 2019-12 -01 12:36 ]