
上巻を読む限り、佐賀県を舞台にした任侠小説です。
主人公の正太は筑豊で採れる石炭を運ぶ船運送会社の三男坊です。佐賀県内に三つの賭場を持つ若き女将と知り合い、婿養子として藤家に入って稼業を拡大していきます。
この男、肝は太いし、いざとなったら真剣を持ち出し命のやり取りも辞さないほどの侠客根性丸出しなのですが、商才もあって、商売に関しては細かい目配りができるのです。
これが、2007年から2008年にかけて、日経新聞に連載というから驚きです。
佐賀弁の極道言葉が紙面を踊っています。
「子ば殺された親の、つけんばならん決着ばつけに行く。それを、おまえら止めらるっとか?」
「俺が欲しかとは、耕一の首だけたい」
「肝ば潰さんでんよか。あんたは、死ぬとばい、遠野さん。」
「動かん方がよかぞ、遠野さん。ひと太刀で決めたか。あんたも、そいで苦しまんで済むばい。」
なんやかんやがあって、大親分の仲裁が入り、正太は九州を所払いになってしまいます。
時代は日露戦争勃発のきな臭さが漂う明治です。
正太は一人当てもなく台湾に流れていきます。その当時の台湾総督は児玉源太郎でした。台湾南部では地元台湾人の反日感情も強い時代でした。
元女親分で背中に緋鯉の彫り物を持つ正太の奥さん藤瑠偉は、藤家の差配を番頭格のお兄いさんに譲って、後で子を二人連れて台湾にいる正太の後を追うのですがそれは下巻での話。
もっとも、上巻の後半から、正太が台湾のキャラメル工場で働きながら、少しづつ自分の起業家としての夢を膨らませていく展開になります。どんな下積みの仕事をしていても、正太の頭には改善に向けての工夫やアイディアが次々に湧いてきます。
いざとなったら命のやり取りも辞さない肝の据わった正太ですので、持って生まれた親分肌で、周りの人たちから信頼を勝ち得ていきます。
任侠の世界から足を洗い、新天地で起業家の道を歩み始める前段階の話が描かれていました。
イメージが湧きにくいですが、高倉健が起業で成功して会社の創業者となるというようなサクセス・ストーリーで、ここら辺りから、ビジネス専門誌の日経新聞連載らしくなってきます。
一番星という名のキャラメル、バナナ味のキャラメルや新高ドロップで有名となった台北を基盤にやがて日本全国展開をすることになる新高製菓の森平太郎夫妻をモデルにした小説です。
森平太郎氏は北方健三氏の曾祖父にあたられるそうです。
通勤電車で読みながら、しばしば鳥肌が立つほどの任侠の緊迫シーンにのめり込みました。