山本一力の直木賞受賞作品の”あかね空”を読みました。
宮部みゆきの”ぼんくら”や”日暮”を読んだとき、江戸下町の人情物ではこれ以上の書き手はいないだろうと思いましたが、いやはや世の中広いですね。脱帽です。
京都の南禅寺の近くの豆腐屋で腕を磨いた職人が、水の違う江戸の深川蛤町で、京物豆腐を作って商いを始める話ですが、恋あり、夫婦仲の機微あり、親子関係の微妙な歪みあり、商売敵からの執拗な仕掛けあり、・・・・職人の厳しさ、決め事というか、願掛けのこだわりあり、・・・よくもこう世話世話した物語を紡ぎだせるもんだとすっかり感心してしまいました。
久々に一気読みをしてしまいました。
深川蛤町と言われるとぴんときませんが、門前仲町の駅近くの富岡八幡宮の周りを舞台にした物語と思えば、時代は違えど身近に感じます。うちの最寄り駅から門前仲町まで電車で10分くらいですから。この作者が江東区富岡で、富岡八幡の近くに住んでいるようです。
2度離婚して3度目の所帯を持った作者ならではこその、男と女の微妙なすれ違いと努力なんかではどうにもならない関係の風化作用が描けています。恋の傷を癒すのも、いい関係を風化させるのも時間という魔力なんですかね。ワインは時間とともにぐんぐん魅力を増すのにねぇ。