7月7日からTBS日曜劇場で始まるTVドラマ「ノーサイド・ゲーム」という池井戸潤の同名の原作を読みました。
いやはやさすがに池井戸潤ですね。読ませます。
トキワ自動車という大手自動車メーカーに勤務する君嶋隼人(大泉洋)が主人公です。
経営戦略室次長の君嶋隼人は、会社のナンバーツーのやり手取締役(上川隆也)が進める大型買収案件に反対する資料をまとめ、その案件は取締役会で却下されてしまいます。
大型買収案件の取締役会での意思決定に関するシーンはこの小説の白眉です。取締役会での賛成派と反対派の攻防は手に汗握ります。議案について、強く推し進めたい人と強く反対する人がいて、その他大勢の日和見派がその場の空気の流れに右往左往しながら決を採る様が実に上手く描かれていました。
その結果、その実力者の怒りをかった君島は横浜工場の総務部長のポストに左遷されます。
そしてその総務部長のポストはその会社が抱える金喰い虫のラグビー部「トキワ自動車アストロズ」のGM(ゼネラルマネージャー)も兼任することになっていたのです。
ラグビーの経験もなければ、興味もなかった君嶋隼人でしたが、経営戦略室で培った合理的な考え方(戦略)で、廃部の崖っぷちに立たされたアストロズの再建に辣腕を振るう痛快な企業小説です。
昔、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」という長ったらしい題名の本がありましたが、「マネジメント」というか「経営戦略」ということでは、野球よりもラグビーの方がよりしっくりくるなと思わされる場面も多くありました。
辞令を受けたとき、社長から、「ゼネラルマネージャーに求められているのは、ラグビーの知識やスキルじゃない。いわばマネジメントだ、君嶋くん。君こそ適任だと思う」と励まされるのですが、社長の言葉は正鵠を射ていました。
また、会社内部の問題(金喰い虫のラグビーの廃部を主張する取締役からの圧力)に加え、日本蹴球協会の問題(既得権に胡坐をかいた旧態依然の改革を望まない体質で、会社からの上納金を当然と思い、ラグビーの普及に不熱心)への君島の無謀とも思える挑戦にも考えさせられることが多々ありました。
君嶋は、ラグビーファンのすそ野を広げようと、ジュニア・クラブの立ち上げを提案したり、地域住民への試合参加の呼びかけ等、今まで実施されてこなかったことから着手します。地域密着型のチーム作りを目指したのです。
また、成績不振のチームの立て直しのための監督選任に大いに経営戦略室での経験を活かします。
経営戦略室にいた頃、君嶋のところには、様々な新規事業の投資案件が持ち込まれていました。 有象無象 の案件内容でしたが、そんなとき、君嶋の評価軸は事業アイデアそのものではなく、経営者の優劣にあったということを思い出したのです。
チームを成功に導いた経験のある監督は、次もまた成功する確率は高い、すなわち成績と監督には高い確度で因果関係が成立すると君島は踏んだのです。
わかりやすくいえば、監督や経営者の力とは、歌唱力と同じだということです。 歌が 上手い人は何を歌っても上手い、音痴はどこまでいっても音痴です。多少の修正はきくでしょうが、努力で届く範囲は知れています。 天才にはかなわない、 君嶋が探すべきは、監督業における天才で、その天才こそが低迷するチームを引き上げ、優勝させるマジックを使える男だと確信したのです。
そこで、社会人チームの采配は未経験ながら、大学チームを三連覇に導きながら、先輩OB指導の古い体質を拒んだためその大学チームの次期監督のポストから外された男に目を付けました。
その男は柴門琢磨(大谷亮平)といって君嶋の大学時代の同期でした。
新生アストロズの優勝請負人として君嶋からスカウトされるわけですが、このスカウトのシーンもよかったです。
三国志で、劉備玄徳が三顧の礼で諸葛孔明を軍師として迎えたシーンを彷彿させるいい書きっぷりでした。
また、どの程度実情を反映しているのか不明ですが、君嶋は、日本蹴球協会という組織に対しても、改革提案を突きつけます。組織の在り方を、既得権の保守に汲々としたプライドばかりが高いどんぶり勘定のシロウト経営そのものだと痛烈に批判するのです。当初は冷ややかに受け流されていた君嶋の改革提案も、時間の経過と共に、頂門の一針となり、組織の大勢に受け入れられ、やがて手嶋もその組織の理事となります。
ワールドカップが今年日本で開催されるラグビーに焦点を当てた、タイムリーな物語だと思いました。
誰が演じるのか気になっていた総務部の部員でチームのアナリストとして、君嶋の有能な部下として活躍する佐倉多英(さくら・たえ)を演じるのは笹本玲奈になっていました。
TVドラマでは、原作には出てこなかった主人公・君嶋隼人の妻役に松たか子の名が挙がっていました。松たか子がどのようにこの物語に関わってくるのか今から楽しみです。