お馴染みの宗教象徴学者ロバート・ラングドン(映画ではトム・ハンクスが演じています)を主人公に描く長篇推理小説「ラングドンシリーズ」の5作目となるのがこの「オリジン」です。ちなみに前4作は、「天使と悪魔」「ダ・ヴィンチ・コード」「ロスト・シンボ」「インフェルノ」になります。
今作の舞台は伝統的なキリスト教国であり、500年以上続く王国でもあるスペインでした。スペインのバスクのゲルニカ攻撃をヒトラーに依頼した独裁者フランコの流れを汲む一派の影響もこの物語の重要な要素の1つになっています。
スペイン・バスクのビルバオのグッゲンハイム美術館から物語は始まっていました。六本木ヒルズにもある巨大なクモのオブジェ「ママン」(世界9ヶ所に展示されているようです)の紹介もありました。そこからマドリッド、そしてバルセロナをまたにかけてサスペンスが展開していきます。
上巻では、ラングドンの教え子であった天才プログラマーでもあり未来学者でもあったエドモンド・カーシュが人類の抱える「人類の起源」と「人類の運命」という最大の謎を解き明かす衝撃的な映像を発表する直前に銃弾で倒れました。
スペイン国王太子の許嫁で美人のグッゲンハイム美術館長とラングドンは逃亡しながら、カーシュが残した人工知能ウィンストンの助けを借りながら、カーシュが発表したかった内容を追求していきます。
逃げながら、目的遂行に突き進むいつものパターンですが、今回は人工知能ウィンストンが声だけの登場ながらウィットにも富んでおり際立ったキャラクターとなっていました。
ネタバレになるのであまりつっこめないのですが、愛すべきウィンストンのキャラそのものも目的遂行のために作り出されたものであって、究極の目的遂行のためには倫理とか道徳とか法律の枠で制御することが困難な厄介な存在となりうるAIの恐ろしい面も描かれていました。
最近読んだ、新井紀子氏の「AI vs 教科書が読めない子どもたち」の中にも、AIはコンピュータであり、コンピュータは四則計算をする機械でしかないと書かれていました。「論理」「統計」「確立」が4000年以上の数学の歴史で発見された数学の言葉の全てであり、この3つで数式に置き換えられないことには何も対応できないというのです。
コンピュータという機械は意味を理解できないのだそうで、人間の知能の営みの全てが論理、確立、統計に置き換えることができないというところがAIの限界だと言いきっていました。
空気を読めないだけでなく、意味を理解できないとすれば、究極の「読解力」不足です。
その一方で、先日(2018年3月14日)に76歳で永眠された天才物理学者で無神論者のホーキング博士は、「完全な人工知能(AI)が実現すれば人類は終焉を迎える」と予言めいた言葉を残しています。俗にいうシンギュラリティ到来の恐怖論ですね。
この「オリジン」では、事件の全容という謎解きもさることながら、凶弾に倒れたカーシュが発表しようとした「人類の起源」と「人類の運命」という人類最大の謎解きも大いなる興味でした。この答えは是非、本を読むことで自ら確認してください。ホーキング博士の悲観的な予言から一転したなかなか面白い発想の答えが用意されています。
バルセロナにある2026年完成予定のサグラダ・ファミリアにも訪問したいと強く私に思わせた小説でした。映画化されるのが待ち遠しいです。