「七人の侍」は、世界の名だたる巨匠が師と仰ぐ黒澤監督の代表作で、1954年に公開された日本映画です。主演は三船敏郎と志村喬が務め、「ヴェネツィア国際映画祭」銀獅子賞などを受賞しました。その『七人の侍』の舞台を西部開拓時代のメキシコに移してハリウッドリメイクされたのが「荒野の七人」です。「七人の侍」が5分間の休憩を挟む207分の大作なのに比べ「荒野の七人」は128分です。
当時の通常作品の7倍ほどに匹敵する莫大な製作費をかけ、何千人ものスタッフ・キャストを動員し、1年余りもの撮影期間をかけましたが、700万人の観客動員を記録し、興行的には成功しました。
日本の戦国時代(1586年です。火縄銃が登場していました。)を舞台とし、野武士の略奪により困窮した百姓に雇われる形で集った7人の侍が、身分差による軋轢等を乗り越えながら協力して野武士の一団と戦う物語です。
黒澤明が初めてマルチカム方式(複数のカメラで同時に撮影する方式)を採用し、望遠レンズを多用した事でも有名です。ダイナミックな編集を駆使して、豪雨の決戦シーン等迫力あるアクションシーンを生み出しています。豪雨のシーンは8月頃撮りはじめ、それが2月まで繰り延べられたためまかれた水がミゾレ混じりとなり三船敏郎が撮影終了後倒れたという逸話まであります。綿密な時代考証等だけでなくとことんリアリズムを求めた黒澤明監督ならではのエピソードですね。
黒澤明が尊敬するジョン・フォードの西部劇から影響を濃く受けた「七人の侍」ではありますが、この作品自体も世界の映画人・映画作品に多大な影響を与えました。1960年にはアメリカ合衆国でユル・ブリンナー主役の「荒野の七人」他、「続・荒野の七人」「新・荒野の七人 馬上の決闘」「荒野の七人・真昼の決闘」、2016年には「マグニフィセント・セブン」としてリメイクされています。
映画の前半部では主に侍集めと戦の準備が、インターミッションを挟んだ後半部では野武士との本格的な決戦が描かれていますが、「侍集め」、「戦闘の準備(侍と百姓の交流)」、「野武士との戦い」が時間的にほぼ均等で、構成的には3部形式いう見方もできるようです。
三船敏郎演じる菊千代が結構コミカルで面白い役を演じています。武士になりたい百姓というか孤児という設定です。不思議と子供がなつきます。「荒野の七人」でチャールズ・ブロンソンが演じるキャラクターに近いです。ただスカウトされたとき薪割りをしていたエピソードは、千明実が演じた平八ですね。
たまたま、「七人の侍」と「荒野の七人」を見比べる機会がありましたが、圧倒的に「七人の侍」の重厚感、構成の面白さ、侍と百姓の人間関係等に軍配を上げました。
「七人の侍」では寡兵の七人が村の地形を調べ尽くし、要所要所に罠を仕掛け、野盗をおびきよせたりの百姓たちもしっかり役割を持たされた軍団の戦略・戦術の面白さをみせていた一方で、「荒野の七人」はユル・ブリンナー演じるクリス等の早打ちといった個人の持つ個の力に頼っていた点が単調に見えたせいだろうと思っています。