和製ナルニア国物語って感じで、いい年こいたおっさんが読む本じゃないよなと思いつつ、いつも間にかかがみの向う側の世界に引きづり込まれていました。
ふと我に戻ったときには読み終わっていたという不思議な体験でした。
まあ、昨年の王様のブランチの一押し小説だけのことはありました。今年の本屋大賞の最有力候補でしょうね。
学校に行けなくなってしまった中一の少女が鏡の向こう側の世界に入り込みます。そこにはお城があって彼女を含めそれぞれの事情で学校に通えなくなった中学生7人が限られた1年の刻を共にすることになります。徐々にお互いのバックグランドを知ることになるのですが、・・・・・。
今、その時、その場所で、自分の居場所が無くて、出口を見いだせない閉塞感に息が詰まりそうに感じている少年・少女やその両親に是非読んでもらいたいです。自分の居場所はいくらだってあるし、時間は流れて、自分の経験から必要だと思えることを次の世代の悩める後輩たちに施すことができる、そうした将来があるってことを知るだけでもずいぶん気が楽になることもあるんだろうなって思います。(「時間が必ず解決するのよ~、ど~んなに苦しい出来事だぁって~♪」って演歌がありました。)
「人は見かけによらない」とか「思い込まないことの大切さ」もさりげなく教えてくれています。いじめた(といじめられた側が思っている)側といじめられた側の感情の濃淡(いじめられたと思っているほどいじめたとは思っていない)ことなども客観的に描かれていますが、その感じ方の違いの大きさに驚くとともに「ありかも~!」って思いました。
今は、酸いも甘いも経験した海千山千の親父になってしまいましたが、遠い太古の世界に確かに初々しい心の折れそうな中学生時代があったことをふっと思い出しました。
小学校とか中学校時代に親の事情で結構頻繁に転校を繰り返していたので、主人公の「こころ」が裏切られたと思い込んでしまった転校生の東条さんって女の子の「こころ」が思い込んでいた想像と実態の違いの描写に感じ入ってしまいました。
まあ、ほとんど鈍感力でそれぞれの厳しい試練を乗り越えてきた私ですがこの小説で描かれたそれぞれの中学生たちの心理描写、いろいろ緻密に配置された伏線の見事さは、さすがに辻村深月だなってうならされました。
同窓会等のお笑いネタ提供にも面白い本かもしれません。