伊坂幸太郎節が炸裂しています。
いわゆる「語り」というか私から言わせれば「騙り」なのですが、伊坂幸太郎マジックに驚かされます。
舞台は仙台の高台にある新興住宅地です。そこで人質立てこもり事件が起きます。その裏に潜む誘拐ビジネスの実体にも驚かされますが、作者は複数の錯綜するストーリーを時間を前後させながらわかりやすく解説してくれるふりをしながら謎をどんどん深めてくれます。
種を明かしても明かしても、えっ? えっ?という新たな謎が仕掛けられているのです。まるでロシア人形のマトリョーシカのように。
手の内を明かすふりをしながら読者をだまし続けなおかつ読者に不快感を与えないプロのすご技に脱帽です。
そしてしばしば作中に引用されるオリオン座の蘊蓄とユゴーの「レ・ミゼラブル」に出てくる会話が、ガマの油の口上文にすぎない騙りをおしゃれな会話に飾り立ててくれています。
まことに希代の言葉のマジシャン、伊坂幸太郎の真骨頂満開の傑作小説に出会いました。
今年のミステリー国内部門には「AX(アックス)」とこの「ホワイトラビット」の2作が上位にランクされそうな予感です。いや~、騙されるって気持ちのいいもんなのですね。
なんてことを書いていたら、昨日発売の週刊文春の今年のミステリーベスト10の国内部門の第3位にランクインされていました。同氏の「AX(アックス)」は第7位でした。
ちなみに第1位は屍人荘の殺人(今村昌弘)、第2位には私がまさに読み終わろうとしている柚月裕子の「盤上の向日葵」が入っていました。