チェコ=英=仏の合作映画です。
この映画はナチの野獣ことラインハルト・ハイドリヒ暗殺作戦の中心的役割を果たしたヨゼフ・ガブチークとヤン・クビシュの二人を英雄視していません。
クライマックスでこの映画が示唆したものは、この二人によって成し遂げられたハイドリヒ暗殺がいかに大きい代償をチェコの人々に強いたかということでした。そこにこの映画の、そしてこの事件に関わる歴史の重みを感じさせられました。
ヒトラー、ヒムラーに次ぐ、ナチス第3の男で”金髪の野獣”とか”プラハの屠殺者”として恐れられたラインハルト・ハイドリヒの暗殺事件を、史実をもとに描いた暗殺サスペンス劇でした。
第2次世界大戦直下、占拠地域をヨーロッパのほぼ全土に広げていたナチスで、ヒトラーの後継者と目されていたナチス高官ラインハルト・ハイドリヒは、ユダヤ人大量虐殺の実権を握っていました。
ハイドリヒ暗殺計画を企てたイギリス政府とロンドンを拠点としたチェコスロバキア亡命政府は、1941年の冬にヨゼフ、ヤンら7人の暗殺部隊をパラシュートによってチェコ領内に送り込みます。
プラハの反ナチス組織や家族との接触など計画は進みますが、ロンドンのチェコスロバキア亡命政府と現地のチェコ・プラハにいる反ナチス組織の間には微妙な考え方の相違がありました。
そんなこと(ハイドリヒ暗殺)をすれば報復によって世界地図からチェコの国が抹消されてしまうと恐れる反ナチス組織の高官もいたのです。(そこまではいかずとも犯人たちを匿った疑いをかけられたチェコのある村が壊滅の憂き目にあってしまう結果となりました。)
素早い対応を要求される作戦を実行に移す一方で、ロンドンの亡命政府に確認の連絡が取られます。亡命政府からは、送り込んだ暗殺部隊には「計画通り実施!」の、そして現地の反対派には「計画中止」の返事が戻ってきます。
まるで、大東亜戦争時の日本軍の大本営の戦略と、インパールや沖縄での現場の戦略の齟齬をみているような感じでした。
暗殺は必ずしも計画通りの実施とはいかず、不首尾に終わったと思われた暗殺のミッションは、結果的にハイドリヒの死によって成功してしまいます。
しかし、ハイドリヒへの襲撃に憤慨したナチスは、常軌を逸した報復を展開することになり、結局5000人とも10,000人ともいわれる数のチェコ人が暗殺者捜索の名の下に殺害されるという悲惨な結果を招きました。ある村は、村ごと消滅させられてしまいました。
ヨゼフ役は、最近観た映画「ダンケルク」でマーク・ライランス演じる小型プライベートボートの船長が助ける謎の英国兵を演じていたキリアン・マーフィ、ヤン役は「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」でグレイを演じたジェイミー・ドーナンが演じていました。
眼鏡を忘れてしまって字幕を読むのに余計なエネルギーを使ってしまいましたが、それでも画面の映像はメリハリが効いていて素晴らしいと思いました。
ナチス兵の冷徹非情さが際立つ拷問シーンから始まって(ヨゼフやヤンを匿ったチェコ人レジスタンスのおばさんがいきなり鼻の骨を折られてしまいます)、通報によって暗殺部隊が隠れ潜む協会での銃撃戦となる一連のクライマックスのシーンの恐怖も半端ではありませんでした。
新宿武蔵野館の劇場席の椅子は個別に別れていないので、横に座った観客が腰を浮かせてそこからドシンと座り込む振動が感じられたというか、連続する拷問から銃撃のシーンで一番腰を浮かしていたのは私だったかもしれません。
仏作家ローラン・ビネのゴンクール賞最優秀新人賞受賞作「HHhH (プラハ、1942年)」を2014年に読んでいましたので、同じテーマ(ハイドリヒ暗殺)を扱った映画「HHhHプラハ 1942年」(米国映画)を楽しみにしていました。
「HHhH (プラハ、1942年)」の映画化作品が公開される前にこの「ハイドリヒを撃て!ナチの野獣暗殺作戦」が先行公開されてしまいました。
ある意味、イギリス映画の風味に富んだ良質の映画だったと思います。