
6月20日のブログで、「読書 「月の満ち欠け」佐藤正午_直木賞ノミネートされてもいい作品だと思うのだけど・・・と題したブログ記事をアップしましたが、ノミネートどころか、直木賞受賞に輝きました。
61歳という佐藤正午さんは、大まかに括るとほぼ私と同年代で、遅咲きという印象ですが、ご本人は、「作家の人生にはいろんなコースがある。 直木賞にはこの年になってばったり出会った感じ」と自宅の佐世保市で受賞の知らせを聞き、電話取材に喜びを語られたそうです。
長崎県佐世保生まれですが、大学は何故か北海道大学。
大学在学中、同郷の作家野呂邦暢の『諫早菖蒲日記』(1977年)を読んで感銘を受け、ファンレターを書いて返事をもらったのをきっかけに小説を書き始めることになります。
小説執筆に専念するためでしょうか、1979年に北海道大学を中退し佐世保に戻り、2年がかりで長編小説「永遠の1/2」を書きあげます。 筆名の「正午」は佐世保市の消防署が正午に鳴らすサイレンの音を聞いて彼が小説の執筆作業に取り組んだ習慣から思いついたようです。
そのデビュー作「永遠の1/2」は1983年のすばる文学賞受賞作品となりました。
その後、人生の岐路を描いた「Y」(1998年)や日常の分岐点から失踪をテーマにした「ジャンプ」(2000年)等がベストセラーになります。
私が、彼の作品に出合ったのは、「身の上話」(2009年)です。 今は亡き児玉清さんが司会をされていたNHKBSの「週刊ブックレビュー」という放送であるゲスト出演者が激賞されていたのを聞いたのがきっかけでした。
その「身の上話」を原作とした、NHKドラマ「書店員ミチルの身の上話」が戸田恵梨香主演で2013年に放映されましたが、ドラマもハラハラドキドキの展開で面白かったです。 日常の積み重ねの中でささいでありがちな選択、判断がとんでもない事件にどんどん進化していく話で、私としては、映画「ファーゴ」を彷彿させるものでした。
そして、読んでいないのですが、2014年の「鳩の撃墜法」です。 2015年に山田風太郎賞を受賞しますが、選者の筒井康隆さんが大絶賛で、気になっていました。 筒井さんが、「こんな優れた作家の存在を今まで知らなかった。受賞は当然であろう。」とコメントされていましたが、他の選者から、筒井さんが、「絶対この人を逃すな!」と激賞していたとの話のほうが印象的でした。
そして、今回直木賞を受賞した「月の満ち欠け」です。 2017年4月に岩波書店から出されましたが、今回のノミネート作品とされるには日があまりなくぎりぎりすべり込んだというタイミングでのノミネートでした。
生まれ変わりをテーマとした、虚実ない交ぜというよりあり得ない世界の話なのですが、読んでいるうちに引き込まれ、構成は時系列と登場人物が錯綜して複雑なのですが、ページを行きつ戻りつしながら、大ウソの世界にどっぷり浸かってその世界を楽しんでいる自分がいました。 前のページに戻る度、この作家がいかにこの錯綜の世界を緻密に練り上げたかの仕掛けの発見がありそれがまた読書の楽しみを倍加させてくれるのです。
藤沢周平似の容貌の佐藤正午氏の秀でた文章力の底流に潜む静かな「愛」もいいですね。一粒で二つの愛を味わえました。
だまされる楽しみを味わえるという意味では、巨匠ジェゼッペ・トルナトーレ監督、ジェフリー・ラッシュ主演の映画「鑑定士と顔のない依頼人」(2013年)に通じるものを私は感じました。 そういえば、ジェゼッペ・トルナトーレ監督も奇遇ながら、佐藤正午氏と同じ61歳です。
まだ、この「月の満ち欠け」を読んでいない人がうらやましいです。