"夏子の酒”という日本酒の漫画があります。夏子と言う新潟?の造り酒屋の娘で、そこで働く杜氏も一目置く天才的な舌を持っています。幻の酒造りを目指していた兄さんが急死し、夏子がその兄の遺志を継いで、幻の米”龍錦”からお兄さんの名の一字を取った幻の純米大吟醸”康龍”を造りあげる話です。
先週、赤坂のイタリア・レストラン”
マガーリ”でワイン会に参加したときに、フランス・ブルゴーニュのマダム・ルロアの白ワインを飲む機会がありました。最近、結構髙島屋やその他のワイン・ショップでもよく目にするワインで、値段は3,000円くらいから35,000円くらいでばらつきがあるなぁという印象でした。
ワイン会での説明だと、マダム・ルロアは天才的なテイスターだそうです。自分の舌にかなうワインの造り手がだんだん少なくなることを嘆いて、自らワイン醸造を手がけて今や超一流のネゴシアンとして不動の地位を築き上げました。1998年に決別したらしいですが、1983年から15年間は、当時のロマネ・コンティの醸造長であったムッシュ・ノブレとテイスティングを重ねる女性がこそが、トレード・マークである白いシャネルのスーツに身を包んだマダム・ルロアだったのです。彼女は1950年代のパリの国際試飲会で、全問正解で、天才的なテイスティングをして有名になりました。白いシャネルは、スワ-リング(swirling)でこぼさない自信のあるプロ中のプロ意識の象徴でしょうか?パリのシャネル・ブティックにマダムと全く同じ体型のマヌカンがいて、その人がいろいろ選んでくれているようです。
自分でワイン醸造を手がけるようになってからも、トレード・マークのシャネルは変わらないようです。葡萄畑での農作業にシャネルのスーツです。さすがに、Tシャツ、スニーカー姿になることもあるようですが、ジャケットも含めて全てシャネル製だそうです。そのことから、畑仕事をしていないと言う人もいるようですが、マダムはビオディナミ農法という殺虫剤を使わず、雑草とともに元気な畑作りに人一倍精力を費やしているようです。
そこが、夏子との共通点なのです。夏子は、龍錦という山田錦より粒の大きい酒米を造るため、殺虫剤を止め元気のいい田作りから始めたのです。若き杜氏、草壁とともに、苦労して幻の酒を作り上げたのです。そこにたどり着くまでは、夏子の舌が天才すぎて、現実的な杜氏とのすれ違いなどの苦労話が絶えませんでした。認められない天才、妥協できない天才には孤独が付きまといますが、兄さんの霊に守られて信念を貫き通しました。夏子は舌ではなく、心で酒の味をみると言います。
畑仕事はやっていないという評のたつルロアも、成功の陰に世間からは理解されにくい苦労もあったのではないでしょうか?
マダム・ルロアの有名な言葉に”ワインに聴け”というものがあります。2つ紹介します。
1.静かに静かにワインが語るのを聴きなさい。ワインが過ごしてきた歳月が、そこに幾層もの香りの襞を作り、空気に触れてのびやかに自らを解き放つのを聴きなさい。心で聴く人だけにワインは雄弁です。
2.ワインを語る人は大勢います。しかし、ワインを聴く人は本当に少ないのです。ワインを知りたいのなら、ひたすらワインに聴くことですよ。ワインはメモワールです。さあ、目をつむって、お口に含んでごらんなさい。
マダム・ラルー・ビーズ・ルロア Madame LaloubBize-Leroy
この境地で、DRCリシュブルを上回るという、90年のルロアのリュシュブル(ロバート・M・パーカー98点)を飲みたいものです。シャンボール・ミュジニーもいけそうですが・・・。 ワインはメモワールですから、思い出と感動を静かに分かち合える人と・・・。