半沢直樹を主人公とする小説でも、やり過ぎの感のある銀行への金融庁立ち入り検査が問題になっていましたが、それはドラマでのお話です。
ただ、現実の世界でも、その金融庁の影響力が、上場一般企業や会計監査人としての監査法人に対しても、間接的に監査役の仕事にも、大きくなりつつあるなと感ずるこの頃です。
株式会社等における、会社の設立、組織、運営及び管理について規定している「会社法」は法務省の所管です。
一方で、内閣府外局たる金融庁が所管するのが「金融商品取引法」です。金商法は大きく4つの章に分けることができますが、一般の株式会社に係る事項は、企業内容等の情報開示規制とインサイダー取引規制の2つです。残りの2つは、金融取引業者に対する規制、並びに金融商品取引所に対する規制です。
金商法の目的には、有価証券の発行及び金融商品の取引等云々とありますが、一般の株式会社に係る部分だけを取り出しますと、「上場株式等の発行及び取引等を公正にし、上場株式等の流通を円滑にするほか、資本市場の機能の十分な発揮による上場株式等の公正な価格形成を図り、もって国民経済の健全な発展及び投資者の保護に資することを目的とする。」ということになります。
要するに、投資者保護目的のためにあるのが、金商法です。金融庁は、金商法の他、預金者保護目的の銀行法、保険契約者保護のための保険業法も所管しています。
「会社法」との棲み分けで、金融庁は本来、取締役会等の「会社機関」の構成に関してモノは言えないはずです。言えるのは、せいぜい証券取引所経由で有価証券報告書へ記載の情報開示強化にとどまるはずなのです。
ところが、法律ではありませんが上場会社にはニラミの効く証券取引所ルール(有価証券上場規程等)を通じて、いろいろと金融庁が口を挟んできています。
会社法で規定された社外取締役や社外監査役の社外要件より厳しい独立役員選定という規制で、上場会社に独立役員を選任/選定させ取引所に届け出ることを求めたり、コーポレートガバナンス・コードの適用を上場会社に求めたりしています。コーポレートガバナンス・コードでは特に会社の意思決定機関、取締役の監督機関として重要な取締役会の役割と責務に細かい原則(取締役会の役割と責務に係る基本原則、原則、補充原則を合わせると34の原則があります)を設定しています。その原則1つ1つについて、原則通りにしているか、していないならそれは何故かという説明が求められているのです。
社外取締役の選任は、会社法でも事実上導入というに近い改訂条文(2015年5月1日施行)が追加されました。こちらのコーポレートガバナンス・コードは、社外取締役は複数人が望ましいという補充原則から、さらに取締役会の構成人数の過半数を社外取締役にというところまで書き込まれています。取締役会での意思決定プロセスにおいても代表取締役等の業務執行監督という牽制機能においても、(独立)社外取締役の活躍を大いに鼓舞する仕組みがこのコーポレートガバナンス・コードから見て取れます。
会社法の経営に関する最重要機関である取締役会の構成員である社外取締役選任に関しては、金融庁の息のかかったコーポレート・ガバナンス法でその構成員の複数人化、過半数化まで促されているという感じです。
上場会社にとっては、会社法よりさらに微に入り細に入りのコーポレートガバナンス・コードの縛りが気になってくるわけです。
金融庁の影響力は、さらに監査法人にも大きく及んできています。不祥事がなかなか減少しない中、公認会計士・監査審査会の監査法人への検査が大変厳しくなってきていて、多くの監査法人が多かれ少なかれいろいろ指摘を受けているようです。
監査法人からの報告を聞くと、まるで銀行へ立ち入り検査をした金融庁さながらの細かい指摘が目立って驚かされました。監査の品質管理において相当細かい改善にも取り組まざるを得ない状況になっています。監査調書の記録1つにまで指示が入っている有様です。
それらの検査結果は、担当の会計監査人(=監査法人)によって株式会社の監査役へ報告され、一方、監査役は、最近の改正会社法で、会計監査人の評価を厳密に行うことが求められていますので、公認会計士・監査審査会の会計監査人への指摘事項への取り組み状況をモニターせざるを得ないということになってきています。
銀行の監査役から離れて、上場ITベンチャー企業の監査役になり、金融庁検査などの直接のプレッシャーから逃れられたかなと思いきや、間接的にですが、金融庁の影が、会社の機関設計(監査役が監査する取締役の職務執行の範囲を含めて)や監査役が行わなければならない会計監査人の評価にまで大きく覆いかぶさってきています。
金融庁が、生保、銀行、証券会社、金融商品市場だけでなく、コーポレートガバナンス・コードを通じての社外取締役の複数人化、取締役会の活性化のみならず、監査法人に対する立ち入り検査等で、事業法人(金融法人にはスチュワードシップコード)のガバナンスの領域にまでその影響力を各段に大きくしてきています。