工業簿記・原価計算の学習では、大体受注生産を前提とする個別原価計算からスタートします。
材料費、労務費、経費という費目別計算から、それぞれの直接費の消費額を仕掛品勘定に賦課し、間接費を製造間接費に集計し、そこから仕掛品勘定に配賦したり、その製造間接費をさらに製造部門、補助部門に分けて部門別計算したりします。結局は月次の仕掛品、製品勘定から、売上原価へという勘定連絡図に乗っかるのですが、製造間接費の箇所が結構論点が多く大変です。
個別原価計算から、総合原価計算へ学習が移ると、まったく違う世界の話に見えてしまうので不思議です。
製造原価は、まず形態別分類(材料費、労務費、経費)を基礎にしますが、総合原価計算では、直接費と間接費に分けるのではなく、製造原価を直接材料費と加工費(=直接材料を加工するためのコスト、間接材料費+直接労務費+間接労務費+直接経費+間接経費)の2種類に分類されてしまいます。総合原価計算では、個別原価計算では主役格だった製造間接費が不在というか矢面に立たなくなってしまうのですね。
といって、個別原価計算で行った補助部門費の製造部門への配賦という部門別計算問題が、総合計算でないかといえばそうではありません。総合原価計算では、個別計算で切削部とか組立部とか呼ばれていた製造部門が工程別になって、補助部門費が工程1とか工程2とか、工程別に配賦されます。
似たような処理もあれば、異なる処理もあります。
組別、等級別、連産品等の総合原価計算は、危険を恐れずに言うなら、基本的には直接材料費BOX、加工費BOXの借方にある金額を貸方の個数に応じてどのように割り振っていくかという計算になります。直接材料費は製造工程の始点投入であまり問題になりませんが、加工品に関しては原価の進捗度とか完成品換算量とかといった個別原価計算のときにはなかった概念が入り込んできます。
仕損の処理も個別原価計算と総合原価計算ではずいぶん違います。個別原価計算は受注生産なので、必ず補修したり代品製造(造り直し)で個別対応し、製造指図書の製品番号毎にその仕損費を反映していきますが、総合原価生産は見込み生産ですので仕損費はある程度織り込んでいきます。正常仕損という言葉を使いますが、この原価計算で使う「正常」には、予定調和というか想定範囲内の織り込み済みって意味があります。
その正常仕損の織り込み方もいろいろあって、度外視法、非度外視法という2つの考え方に完成品のみ負担なのか、完成品と月末仕掛品の両者に仕損費を負担させるのか、数多くの論点が出てきます。進捗度が定点で仕損の発生が期末仕掛品の進捗度より前であれば、加工費の仕損費の完成品と月末仕掛品への配賦割合は、直接材料費の数量比になります。
一方、非度外視法の両社負担で、仕損が平均発生の場合、進捗度0.5としますが、月末仕掛品の進捗度が0.5以下でも、完のみ負担とせず両社負担にすることが肝です。
手順は仕掛品-直接材料費の貸方の完成品、正常仕損、月末仕掛品、仕掛品-加工費の貸方の完成品、正常仕損、月末仕掛品の数量をベースに平均法か先入先出法で借方の金額を按分し求めたら、それぞれの正常仕損を合計して、完成品換算量比で完成品と月末仕掛品に、数量ではなく完成品換算量比で追加配賦するということになります。
個別原価法ではさほど大きな論点でなかった仕損費の配賦が総合原価計算では重要な論点の1つになります。
度外視か非度外視か
先入先出か平均法か
完成品のみ負担か、完成品と期末仕掛品の両者負担か
両者負担の場合、直接材料費の完成品と月末仕掛品の数量比で分けるのか、それとも加工費の完成品と月末仕掛品の完成品換算量比で配布するのか
これらの組み合わせを考えると気の遠くなるほど多くの計算が必要となってきます。
この類の問題が出たとき、解法のポイントは
①度外視法両者負担のときだけ、評価額を最初に控除する(借方金額から)
②定点発生のとき両者負担で、加工費の仕損費は、度外視法では換算量按分、非度外視法では数量按分
③平均的発生のとき両者負担で、直接材料費は、度外視法では数量按分、非度外視法では換算量按分となります
この例外的な①、②、③の処理についてですが、理屈より、数多く計算をこなして、頭より手や体が先に動かなければ駄目だと講師が口をすっぱくして言っています。
確かに、簿記の学習は、愚直に走るだけって駅伝ランナーの練習に近いものがあるかもしれません。様々な条件で枝分かれする手順に従って数字を集計し整理分類することが試験で求められていますから。試験問題をみて考えるようでは駄目で、ただひたすらに条件反射が求められているようです。