サスペンスとしてはイマイチでしたが、主演アル・パチーノとエレン・バーキンの魅力と、ニューヨークの街並み、孤独を抱える人間同士の心のぶつかりあい、そしてジョン・グッドマンのナイスガイぶり等見所の多い映画でした。
アル・パチーノ演じるフランクは、自分の気持ちに正直で、別れた女房にも未練たっぷりで、格好悪いデカなんですが、女心をくすぐる術には長けていますね。
エレン・バーキン演じるヘレンも、謎に包まれた悪女っぽく狂気のおっさん全裸殺人事件のシリアル・キラーっぽい雰囲気が漂っていました。ところが、話が進むにつれ、最初の印象が薄れ、ただの男運の悪い正直なバツイチの若ママかよーって安心すると、またまた連続殺害者の新聞求人広告なんかを冷蔵庫に張り付けていたりして、安心させてくれません。
殺人現場に流れていたドーナツ版の「シー・オブ・ラブ」のレコードを持ち出してきたときは、あー、やっぱりヘレンだったのか・・・と、もうアル・パチーノなんか殺されても仕方ないやと諦め心になってしまいます。
目まぐるしく動く、男心、そして女心、そして真犯人は?? この揺れる?揺すぶられる気持こそが、この映画の醍醐味でしたね。もうフランクは完全にフラれるな・・・て瀬戸際からの、なんというアル・パチーノの粘り腰でしょうか。
目が離せません。目が離せないのは、ヘレン役のエレン・バーキンのパツキンお色気とタイト・スカートのシルエットだけではありません。 深夜の人気のないコンビニかスーパーマーケットで二人で他人のふりをしながらのシーンでの彼女の流し目が生唾ものでした。
フランク役のアル・パチーノのあきらめの悪い食い下がりのセリフがいいですね。
正確な記憶ではありませんが、「俺は孤独な不眠症の男だ」「1日中起きていて、夜の街を彷徨うことも厭わない」「だけど、君が傍にいると、安心して寝られることがわかった」「君のことを考えるとおちおちと寝ていられないんだ、君は俺を深夜の街を明け方まで歩き続けさせたいのか」なんて丸投げの甘えた台詞をわめきちらしていましたよ。
よほどの自信家なのか、単なる自己チューなのか・・・? 「私の知ったこっちゃないわ!」と一言で片づけられたらそれでお終いって感じなんですけど。そこは丸投げ人間独特の嗅覚なのか、口から心を引き付ける言葉の連発銃でした。若干マザコンぽい鼻につくところもありますが・・・・・。
この映画のサスペンスの部分がぬるくて世間の評価はイマイチなんでしょうが、私的には、アル・パチーノのチンピラを追い払う時の眼力も強さがいいですし、囮捜査の対象の女性に惚れて、職責としての捜査と女性へのアプローチという公私混同の板挟みを上手にさばけないダサさが素晴らしいし、疑われた女性がへそを曲げても、めげずに食い下がるセリフがたまらなく心を揺さぶるのです。いい歳こいた駄々っ子ともいえますね。
きわめつきは、ラストシーンで、エレン・バーキン演じるヘレンを必死に口説き続けるアル・パチーノが、通行人にぶつかってこけそうになりながら、再度駆け寄って口説き続けるシーンがありますが、あのエレン・バーキンの破顔一笑は、演技ではなく、本来はNGものだったような気がしてなりません。強烈なアル・パチーノの通行人とのアクシデントとその後の彼のアドリブに思わず吹き出してしまったのではないでしょうか? それにしても、いい笑顔で、幸せな気分にさせてもらいました。最後の音楽というか唄も渋かったですね。終わりよければ、すべてよしという映画でした。真面目で、馬鹿正直なアル・パチーノがバスター・キートンを超えたコメディアンに思えた映画でした。
長いスランプから、お帰りなさいアル・パチーノというこの映画は、1989年の公開でした。この2年あとのセント・オブ・ウーマンで念願のアカデミー賞主演男優賞を獲得しました。