ナチス復興とクローン人間計画の恐怖を描いたアイラ・レビンの傑作サスペンス小説を「猿の惑星」「パピヨン」のフランクリン・J・シャフナー監督が映画化しました。
アウシュビッツ収容所で死の天使と恐れられた遺伝学者ジョセフ・メンゲレを演じたのはグレゴリー・ペックです。
1978年公開の映画ですので、グレゴリー・ペックが62歳くらいのときの映画ですね。ちなみに、彼の主な主演作品の、「ローマの休日」は1953年、「ナバロンの要塞」は1961年、アカデミー賞主演男優賞に輝いた「アラバマ物語」は1962年の作品です。
ナチ陰謀映画のような印象の出だしでは、南米パラグアイに隠れ住んでいるメンゲレ(グレゴリー・ペック)が65歳を迎える94人もの白人男性を殺害していく計画を立て、実働部隊や忠実な支持者によって実行されていきます。
この動きを探ろうとしていた若いジャーナリストが放ったスパイが小さい子供というのが印象的でした。
この時点で、映画の題名から、この子供が主人公なのかなと思わされてしまいました。
しかし、この少年は捕えられた後には、誘拐された挙句に目の色を染料で変えられる実験を受けたうえで、殺害されてしまうのです。
盗聴器を仕掛け、ナチの残党の計画を知ってしまった若きジャーナリストもその後すぐに消されてしまうという展開は意表をついていましたね。
予測が難しい展開の中で、この物語の真の探偵役がオーストリアを拠点にナチス残党を追跡していたリーバーマン/リーヴェルマン(ローレンス・オリヴィエ)だということが徐々に明らかになってきます。このナチスハンターを演じるローレンス・オリヴィエはこのとき70歳を超えたおじいちゃんでした。
このリーヴェルマンにはモデルがいます。 生涯で約1100人のナチス戦犯の逮捕に貢献したと言われている実在のサイモン・ヴィーゼンタールです。 アイヒマン逮捕にも関与していましたし、この映画同様メンゲルを執拗に追いかけていたようです。
この時点では、何故65歳の老人が94人殺害されるのかという、メンゲレの計画の全貌も見えてきます。14年以上の歳月をかけて、94体のアドルフ・ヒトラーのクローンが作り出されており、赤ん坊の時にその94人に養子縁組させて世界中に送り込んで成長させていたのです。
1980年前の映画で、ここまでクローニング技術を全面に出した発想に驚かされました。
クライマックスでは、メンゲル博士とリーベルマンの老体2人の取っ組み合いがあり、そこに現れたヒトラーの遺伝子を持った14歳のクローン少年がドーベルマンを使ってメンゲル博士を殺害してしまいます。
この終わり方がいろいろ物議を起こし、日本での公演は見送られたいわくつきの映画ですが、ナチ残党の暗躍や遺伝、はたまたクローン問題に、鋭く迫った含蓄のある映画との印象を持ちました。