「薔薇の名前」(ばらのなまえ、Le Nom de la Rose)は、1986年に製作されたフランス、イタリア、西ドイツ合作映画です。ウンベルト・エーコによる同名小説「薔薇の名前」の映画化作品で、監督はジャン=ジャック・アノー です。 ショーン・コネリーが主演です。
007ジェームス・ボンドに代表されるアクション映画俳優から脱皮した渋い演技を見せているところが印象に残った映画でした。 演技派名優としてのショーン・コネリー誕生作品といっても言い過ぎではないでしょう。 ショーン・コネリーが膨大な蔵書を見つけたときの「I knew it!」と手放しで喜ぶ様が可愛かったです。
筋立ては、いわば、宗教裁判の嵐が吹き荒れている頃(映画の年代設定は1327年)の北イタリアの修道院で起こった若い修道士連続殺人事件を、シャーロック・ホームズと助手ワトソンを彷彿させる修道士ウィリアム(ショーン・コネリー)と見習修道士のアドソ(クリスチャン・スレーター)が解決するというまことにたわいのないものでした。
この段落は、ネタバレ要注意項目です!まだこの作品を観ていない方はこの段落を飛ばしてください。
基本的に裏で糸を引いていた犯人は盲目の元文書館長で、動機もアリストテレス著作の「人間の笑い」に関する本を禁書として隠したいという荒唐無稽なものでした。
ベネディクト修道院の戒律の中では、むやみに笑うことは罪であるというのがあったのです。しかし、希少価値の超プレミアム本を処分する勇気もなく、木を隠すには森の中、本を隠すにはたくさんの本の中だということで秘密の隠し書庫で多くの本に紛れ込ませてしまいます。 そして、万一この本が見つかってもいいように各ページに毒(ヒ素)を塗ります。この本を読むとき指に唾をつけてめくった人は死ぬようにしてしまったのです。ネタばれ御免なさいね!
豚小屋の血の入った樽から死体の脚だけが出ているシーンは、横溝正史の「犬神家の一族」の池に逆立ちで殺害されたシーンを思い出しました。 でも、映像がおぞましい割には真相があっけなさすぎです。
ラテン語をこねくり回して博学ぶっている匂いがプンプンしていましたが、「信仰と狂気の差はわずかしかない」という台詞には納得をさせられた映画でした。 おぞましい殺人事件の動機が「笑い」だったというのも風刺が効いていて面白いって思いました。
最近観た「スポットライト」ではカトリック教会聖職者による幼児性愛行為の隠ぺいが取沙汰されていましたが、この「薔薇の名前」でも男色の蔓延した風潮が底流にありました。
「薔薇の名前」については、ナレーションで流れていましたが、見習い修道士アドソが恋した無名の農民少女ことを指すようです。
「彼女のことは忘れられない。だが私は彼女の名前も知らない」
字幕では、「薔薇は神に名づけたる名 我々の薔薇は名もなき薔薇」って表示されていました。
事件の真相にはがっかりでしたが、ショーン・コネリーの演技に加えて、舞台となる中世修道院での生活や道具、慣習などを忠実に再現するため、衣服から小道具に至るまで詳細に復元を行ったとされる撮影が見事でした。
その他、ちょっと懐かしい俳優さんも発見できましたよ。
異端審問官ベルナール・ギーを演じた F・マーリー・エイブラハムは、「アマデウス」のサリエリ役でオスカー俳優になった人ですね。 「アマデウス」は1984年公開で、この「薔薇の名前」の公開はその2年後の1986年です。 今年御年76歳の彼はTVドラマ「ホームランド」や、去年観た「グランドブタペストホテル」にも出演し活躍中です。
修道院長アッボーネを演じたミシェル・ロンスダールは、「ジャッカルの日」でジャッカルを追いつめるクロード・ルベル警視が印象に残っています。 御年84歳。