銀座のシネスイッチで観ました。
昨日のブログで紹介しましたが、熟年夫婦の危機というか、特に夫の立場からのホラー映画としては邦画の「家族はつらいよ」を観たばかりでした。 (そういえば、今年の本屋大賞の受賞作はピアノの調律師を目指す青年の話を扱った宮下奈都さんの「羊と鋼の森」と発表されました。 「家族はつらいよ」の次男役の妻夫木聡の職業がピアノの調律師でした。)
「家族はつらいよ」は喜劇だったので、笑い飛ばせましたが、こちらの「さざなみ」は静かな映画ながら、その静謐さの中から、オスカー候補となったシャーロット・ランプリングの怒りと悲しみの表情が、微かな隙間から眼光を光らせているように見え、さざなみのようにざわざわと観客の心を恐怖に陥れる凄みがありました。
イギリスの小さな地方都市が舞台です。
長年連れ添った夫婦の関係が1通の手紙によって揺らいでいく様子を通し、男女の結婚観や恋愛観の決定的な違いを浮かび上がらせていく人間ドラマでした。
結婚45周年を祝うパーティを土曜日に控え、準備に追われていた熟年夫婦ジェフとケイト。ところがその週の月曜日、彼らのもとに1通の手紙が届きます。それは、50年前に氷山で行方不明になったジェフの元恋人カチャの遺体が発見されたというものでした。
ジェフはよせばいいのに「僕のカチャ」なんて呟くのです。 ホントによせばいいのにこの親父、「昔のオンナが忘れられない症候群」に罹ってしまうのです。
妻の前でそれはないでしょうというくらい脇が甘いのです。 妻ケイトの控えめな仕草と態度が、それだけ彼女の憤怒の深淵さを覗かせているのに、あ~、男ってばかですねぇ。 極楽とんぼのジェフは過去の恋愛の記憶を反芻するようになり、妻は存在しない女への嫉妬心や夫への不信感を音もなく募らせていくのです。
45回目の結婚記念日でジェフと踊るケイトのまなざしに、刹那に感じられた冷たい刃物の閃きが感じられる、そんなおっとろしぃー映画でした。
「スイミング・プール」のシャーロット・ランプリングと「カルテット!人生のオペラハウス」のトム・コートネイが夫婦の心の機微を繊細に演じ、第65回ベルリン国際映画祭で主演男優賞と主演女優賞をそろって受賞しました。
この映画は、どんな世代であれ、カップルで観ない方が無難な映画の筆頭ですね。 気まずい、苦笑いしか残りません。 くわばらくわばら。