2013年のフランス最高の文学賞、ゴンクール賞受賞作品です。 ミステリーではなく、ジャンルとしてはピカレスク(悪漢小説)というか、あるいは人間喜劇というか、冒険小説の要素も合わせもったたような物語です。
「その女アレックス」でも結構えげつない秘所の肉体的な支障の描写は出ていたが服に覆われていました。 第一次世界大戦という背景もあるのでしょうが、この「天国でまた会おう」の主要登場人の1人は顔の半分が吹き飛ばされています。そしてあろうことか、整形補修の手術を拒むのです。相当なひねくれ者です。 のどの奥までむき出しなのですよ。 戦争の悲惨さ醜さの象徴として強烈な反逆児が物語の異様さを煽り立てていました。
その顔半分を失った元下級兵士に命を助けられた同僚の優柔不断な元下級兵が、この物語の狂言回し役です。
もう1人の強烈な個性が戦争中の彼らの上官です。貴族階級なのですが新興貴族階級出身らしく、上昇出世志向の塊です。自分の出世とか金儲けのためなら、人を人とも思わぬ、非情のマキャベリストです。美男子なのですが品性最悪男です。
終戦のどさくさに紛れてその上官はある事件を起こします。結局彼はその事件をきっかけに鼓舞された部下兵士達の決死隊を率いて最後の華々しい戦功をあげ、中尉から大尉へ思惑通りの出世をします。その部下兵士達の1人であった狂言回し君は、その上官が仕組んだ卑劣な仕掛けの真相に気づいてしまいます。 狂言回し君は、その上官によって証拠隠滅(目撃者隠匿)のため、生き埋めの憂き目に会ってしまうのです。
その彼を土を掘って助けたのが、顔半分君です。狂言回し君を助けてほっとした瞬間、顔に被弾して悲惨なことになってしまいます。
顔半分君は、実は富裕層の出身で大変な画才の持ち主でした。でも父親に大変な憎しみを持っていて、狂言回し君に頼み込んで、身元不明の死んだ兵士に成り代わって別の人生を歩もうとします。 そして狂言回し君に頼んで自分は戦死したとの手紙を家族に書いて送ってもらいました。
彼には姉がいて、彼女がその他人の遺体を自分の弟のものと信じて引き取りに終戦直後の戦地に来るのです。そのとき立ち会ったのが、そのマキャベリスト上官と狂言回し君でした。 マキャベリスト上官は、狂言回し君の嘘に気づきますが彼の弱みを握ったことで顔半分君の姉の願いをかなえるべく他人の遺体を引き渡すことに協力をします。
それから1年、あろうことか、マキャベリスト上官はその顔半分君の姉と財産目当てに結婚していました。そして狂言回し君は命の恩人の顔半分君と貧しい暮らしながらなんとかやりくりしています。顔半分君は痛み止めのモルヒネが必需品で、狂言回し君はその費用をねん出するのにまた外出できない顔半分君に流動食を作ったり身の回りの世話をするのに精いっぱいの生活でした。 復員兵を受け入れる余裕が社会になくアルバイトでぎりぎりの生計をたてる羽目になっていました。
フランス政府は帰還兵/復員兵を厚くもてなすにはあまりにも財源不足だったのです。それでも、時がたつと、帰還兵はさておき、戦死者の記念碑を建てようという動きが民衆の人気を取りたい政治家あたりから出てきます。
上巻では物語の起承転結の起承までです。強烈な個性3人の登場の説明だけでまだ何も起きていません。 けれど、波乱万丈の物語が下巻で展開されそうな予感です。気分すっきりの大逆転サヨナラホームランを期待しています。