芥川龍之介の初期の短編集です。その多くを平安時代末期に成立したと言われる説話集である「今昔物語」を素材にして書いています。「今昔物語」の作者は不明です。
短編集の中では「鼻」が、師事した夏目漱石から絶賛され、龍之介が文壇に第一歩を印すきっかけとなりました。
「羅生門」は黒澤明監督、主役三船敏郎、京マチ子の映画で有名ですが、三船敏郎演ずる多襄丸の出てくる物語の原作は「藪の中」です。つまり映画「羅生門」の原作は、そのほとんどが「藪の中」の物語であり、「羅生門」の部分はその映画の狂言回しである志村喬演ずる老人が、「藪の中」の物語話が終わった後、目撃するエピソードとして最後のシーンに付け加わっています。
「藪の中」は、新潮文庫の「地獄変・偸盗(ちゅうとう)」という短編集に収まっています。ちなみに「六の宮の姫君」もその短編集の中にあります。
この「羅生門・鼻」の中に入っている「袈裟と盛遠」の短編は、吉川英治の「平家物語」等でもエピソードとして紹介されていますが、一般的には貞女袈裟の美談として伝わっています。芥川龍之介は、袈裟の偶像化された女性像を破壊したかったようですね。この芥川の解釈は、発表当時多くの人から痛罵を浴びています。芥川龍之介には白を黒といって議論を吹きかけたがる性癖があるようで、「俊寛」という古典の解釈にしても、倉田百三や菊池寛の解釈とは違った解釈を発表して対抗意識を隠さなかったようです。