有楽町駅隣接ビッグカメラ8階の角川シネマ有楽町で観ました。
トルコの巨匠ヌリ・ビルゲ・ジェイランが、2014年・第67回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールを受賞した重厚な人間ドラマです。監督は過去作でもカンヌ映画祭で受賞を果たしていますが、これが日本での劇場公開作品なのですよ。
世界遺産カッパドキアの荘厳な景色をバックに、悲喜こもごもの人間模様を描いています。主人公は洞窟ホテルのオーナーで資産家の初老の男です。彼は元舞台俳優で、今は地方紙へコラムの投稿をしているちょっとした知識人です。
3時間を超える超大作の中には、大きく3つのエピソードが紹介されていました。
1つは、主人公と彼の美しい若妻との擦れ違いです。このエピソードの原作はチェーホフの短編「妻」(1892)です。妻が自分の居場所と生きがいを求めて、貧しい人達への寄付金集めに夢中になる様が滑稽に描かれています。
2つめは、離婚して兄の家に転がり込んで無為の日々を暮らす妹が、コラム執筆中の主人公に、「浅知恵で高尚な意見をのたまうその勇気に感心するわ」等悪態をつきます。 容赦ない罵倒と議論を兄妹間で続ける原作もチェーホフの短編「善人たち」(1896)です。この作品の発表当時はそのものずばりの「妹」という題名がついていたようです。
家主としての主人公へ家賃を滞納する聖職者の一家との不和のドラマもあります。この中には、ドストエフスキー作品へのオマージュのようなエピソードがちりばめられています。「カラマーゾフの兄弟」の中に出てくる、父親を辱められたことに復讐するために石をカラマーゾフに投げつける少年と類似のシーンが出てきますし、「白痴」に出てくる、めぐんでもらったお金に対する驚愕の使い道の場面もこの映画の中で目撃できます。「えーっ、そんな・・・」という空気がざざーっと観客席を覆い尽くします。
「美しい馬の国」という意味のカッパドキアの美しい自然と、その地で繰り広げられるチェーホフ+ドストエフスキー等の近代ロシア文学を下敷きにした野外劇(人間ドラマ)を是非映画館でお楽しみあれ。延々と続く口論での言葉、言葉、言葉に圧倒されまくって時間の長さが気にならない196分になること受けあいます。