日比谷のTOHOシネマズシャンテで観ました。
舞台はチェチェン共和国です。ロシア連邦を構成する国の1つです。 黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス山脈の北側にある岩手県くらいの大きさの国に100万人ほどのイスラム教徒のチェチェン人が住んでいます。 ロシア帝国に併合されていますが独立の意欲が旺盛です。 19991年のソ連崩壊後、チェチェンは独立を宣言しましたが、コーカサス地方の豊かな地下資源を失いたくないロシアは軍隊侵攻で圧倒しようとしています。
この作品は1999年に始まった、いわゆる「第2次チェチェン戦争」をめぐる物語です。
この年の9月、ロシア各地で謎の爆弾テロ事件がありました。 プーチン大統領はたいした証拠もないのに犯人はチェチェン人と断定して、無差別空爆と地上軍の侵攻で、20万人の民間人の命(5人に1人)を奪う、大殺戮をしたのです。
この背景知識をもって映画を観れば、その残虐な内実をこの映画でしっかり目撃できます。
ちなみに今のチェチェンは親ロシア派のラムザン・カディロフ首長が暴力で支配しています。
さてここからはネタバレ情報てんこ盛りです。 先入観なく映画を楽しみたい人はここまでです。
第84回アカデミー賞受賞作「アーティスト」のミシェル・アザナビシウス監督が、戦争で両親と声を失った少年が難民キャンプでEU職員に支えられながら懸命に生きる姿を描いたヒューマンドラマ映画を作ってくれました。
監督の奥さんで「アーティスト」の主演女優のベレニス・ベジョも、その少年ハジに救いの手を差し伸べるEU職員のフランス人キャロルを好演していました。
もう1人、コーリャという青年が、ロシア軍に徴兵され、苛められ、やがて殺人マシーンに変身していく様が別の物語のように展開していきますが、最後の最後に彼の物語が、少年ハジの物語の冒頭に繋がり、まるでメビウスの輪のような印象が浮かび上がります。さも、このチェチェンの悲劇は今も続いているかのような余韻をにくいほどの効果で盛り上げていました。
わずかに希望を見出しながら前進しようとするハジと姉ライッサに比べて、コーリャはこれから戦死に向かって落ちてゆくだけ希望がないという交差だったように思えてなりませんでした。
原題は「The Search」です。
チェチェン共和国の少年ハジは両親を目の前でロシア兵に銃殺されてしまいます。 彼は幼児である弟と隣国イングーンに逃れようとしますが、体力が続かず 途中で幼児の弟をある家の前に捨てます。 両親を殺され、弟を捨てた彼は、途中で隣国に逃れようとするトラックに拾われますが、重なるショックのトラウマで声を失っていました。
ハジは姉のライッサも両親と一緒に殺されたと思っていましたが、若いライッサはロシア兵に犯されただけで命は助かっていました。 彼女はハジが逃亡の途中まで幼児の弟と一緒だったことを突き止め、ハジを探してチェチェン共和国の国境から35キロ離れた隣のイングーン共和国の難民キャンプにやってきます。 姉ライッサはやがてその難民キャンプの職員として働きますが、弟は難民キャンプではなく、そこで働いていたEU 人権委員のキャロルの家で養われていました。
キャロルは、チェチェン共和国から逃れてきた難民から事情聴収し、国連でその悲惨な状況を訴えますが、国際社会の関心の薄さに落胆します。
それでも、何かに希望を見出そうともがくのはまだ救いがあります。コーリャというロシア青年兵の物語には全く希望が見えず、その彼の物語がこの映画の冒頭に結びつくことで、いよいよこのチェチェン問題の出口の見えない不気味さが垣間見えました。