アンジェラ・アキの名曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」をモチーフに生まれた中田永一(乙一の別名)の小説を、新垣結衣の主演で映画化したものです。
2008年にオンエアされたアンジェラ・アキさんが各地の合唱部に課題曲を届けたドキュメンタリー番組が想像以上に深い悩みを抱えた中学生の悩みをすくいとって大きな反響を呼びました。続編が3本も造られましたが、その中の1つに登場したのが五島列島の若松島にある若松中学校でした。 そのドキュメンタリーに触発され中田永一さんが小説「くちびるに歌を」を2011年に書き上げ小学館から販売されました。2012年の本屋大賞にノミネートされ第4位だったと記憶しています。
元天才ピアニストと噂される音楽教員を演じる新垣結衣の仏頂面がいいです。 笑顔を封印した新垣結衣演じる柏木ユリ先生が実にさわやかです。
同級生の教師ハルコが産休に入ることから代役を頼まれ、東京から故郷の長崎県・五島列島に柏木ユリが戻ってくるのですがこの穏やかな海に囲まれた五島列島の美しさはただものではありません。島の緑と空と海の青さに畏敬の念さえわいてきます。
柏木ユリは、中学校の合唱部で顧問を務めることになります。かつては天才ピアニストだったと噂されます。生徒たちは、あこがれつつも教師とは思えないぶっきらぼうな態度のユリに違和感を持ちます。 柏木ユリから笑顔が封印された理由はドラマの進展の中で明らかになっていきます。 まっすぐで純朴な島の子供たちに見えた彼らや彼女たちも心を痛める事情を抱えていたことも明らかになっていきます。コンクール出場を目指す合唱部の生徒たちに、「15年後の自分」へ宛てた手紙を書くという課題を柏木先生が出します。その課題に応じた生徒たちがつづる手紙には、15歳の少年少女が抱える悩みや葛藤がつづられていたのです。
そうした先生のトラウマと生徒たちの悩みの対峙の中から、先生の指からピアノの旋律が流れ、生徒の口から歌声が響き、前進を意味する汽笛の記憶も蘇るのです。
合掌発表直前のある出来事にうろたえた生徒の1人(ナズナという女生徒)が会場から飛び出そうとします。柏木ユリ役の新垣結衣が叫ぶシーンがよかったです。「逃げるな!私はもう逃げない。あんたは一人じゃなか。だから心配せんで、今は歌えばよか」。凛とした声に心をわしずかみにされました。
物語から「手紙 ~拝啓15の君へ~」の合唱が立ち上がってきます。 今年の滂沱の涙第一号のいい映画でした。 新垣結衣を見直しました。 「あんたはただもんじゃなか!」