上巻は、第一章、「猟奇的な姉と僕の幼少時代」、第二章、「エジプト、カイロ、ザマレク」、第三章、「サトラコヲモン様誕生」の三章から成っています。
幼いころから、エキセントリックな姉の行動に巻き込まれぬよう自分はいい子で、空気を読み、自分の気配を消すことに長けた、圷歩(あくつあゆむ)君の独り言で物語は展開していきます。
1977年にイランで生まれ、1979年のイラン革命でいったん関西に住み、小学校に上がる頃父親の仕事の都合でエジプトに住みます。
多感な幼少期に中東で暮らした経験のある著者ならではの表現力と筆力が炸裂していました。
私も、ちょうど小学校に上がるか上がらないかの息子3人を連れてインドネシアに3年赴任した経験がありますが、この小説を読むと、息子視線に立って感情移入できる部分が多いことに新鮮な驚きと喜びをもらいました。 現地人女中等との人間関係が大きく海外生活に影響を落とすことには大きく納得しました。 それは毎日のことなので子供にも同じことだったのですね。
やがて両親の離婚により、関西で母、姉と暮らすことになる歩の中学生生活、高校生生活も、友達のことや異性との接し方等が丁寧に描かれており、どこかしら自分の経験と照らし合わせて、琴線に触れる箇所の発見が多くあり、読書によって、今まで寝ていた深層部分の記憶が目覚めました。 言葉で表現されるとこういうことだったのかとその言葉のひとつひとつに納得させられました。記憶がリフレッシュされ、これも読書の楽しみだなと思いました。
今回直木賞に輝いたこの「サラバ」も上巻だけしか読んでいませんが、十分満足しています。「通天閣」や「ふくわらい」同様、これも「西加奈子ワールド」を堪能できる素晴らしい作品です。
西氏は絵心もあり、自分の著作の表紙が彼女の絵で飾られているというのも素晴らしいです。
自分の部屋に巻貝を掘ったという歩の姉さんは彼女自身のような気がしました。