2012年の頃、伝説の灘高教師「橋本武」が、灘高でこの「銀の匙」一冊を高校の3年間で読み込むという授業をするということで話題になっていました。 どのような内容なのか気になっていました。
読んでみると、病弱で、早熟で、繊細な男の子を主人公とした子供の世界が綿密に描かれていました。よくぞ、ここまで子供の体験を大人の記憶として書くのではなく、子供の立場で感じたままに描かききったことに感心しました。 大人の自分が読んでも、子供の体験として感じた心の陰影に自分の子供時代に感じたことが思い起こされ共感を覚えることができました。
こうした子供の心の痛みのような感覚を表現するのは、重松清が当代の作家ではナンバー・ワンだと思っていますが、中勘助の「銀の匙」もある意味、驚嘆に値する作品でありました。
そういうみずみずしい子供の感性の発見の書として、2013年にお亡くなりになられましたが、2012年時点で100歳となられた「橋本武」先生が、多感な高校生の国語の教科書に使っていた理由の一部を垣間見ることができたように思いました。
受験高として有名な「灘高」の教師が選んだ教科書としてはその受験目的とかけ離れた意外感が世間の注目を集めたのかもしれませんが、本を読む醍醐味を教えてもらった受験生には一生の宝物になったのではないでしょうか。