第二次世界大戦のさなか、贋札づくりがドイツの国家プロジェクトとして存在していたという事実に驚かされました。国家としての贋札づくりは北朝鮮だけの話ではなかったのですね。
ドイツ政府がイギリスの経済撹乱を狙い画策した史上最大の紙幣贋造事件は「ベルンハルト作戦」と呼ばれるそうです。
ユダヤ人印刷工アドルフ・ブルガーの証言に基づいて制作された映画だそうです。 このエアドルフ・ブルガーも映画に登場しますが、ちょっと鼻持ちならないいやな奴です。 無用の、しかももっともらしい観念論を振りかざす類の人です。
たとえばわざと贋札づくり作業を妨害して、仲間の命を危険にさらしたりなど、次々と困難な問題を起こします。彼にしてみれば、贋札づくりが成功すれば、同胞を殺戮しているナチを助けることになるという理屈です。 それは正論なのですが、収容所でこの作業に携わる連中にとっては、このプロジェクトに成功することだけが生き続ける手段なのです。 失敗すれば、ガス室送りは目に見えているのです。
正論を振りかざし、仲間を危険に陥れるエアドルフ・ブルガーに対し、プロの贋作士で贋札製造プロジェクトリーダーのサリー(カール・マルコヴィックス)は現実的で、生死の危機に陥った同胞を救うための駆け引きとして贋札製造に手を貸していきます。
ある意味、これは極限状態に追い込まれた集団の中での選択の問題を取り上げたものとして観ることもできますし、 仲間とともに生きる道を探求する超一流の贋作技術者を中心としたヒューマンドラマとして観ることもできます。
この贋札を、イングランド中央銀行が贋札と見抜けず、本物であるという証明書を出したというエピソードがありました。 このユダヤ人囚人で構成されるプロジェクトチームの技術の高さが認められたということに、小さな拍手を送りたくなりました。
「ベルンハルト作戦」はハインリヒ・ヒムラー率いる親衛隊によって画策され、ベルンハルト・クリューガー少佐(劇中ではヘルツォーク少佐)によってザクセンハウゼン強制収容所で実行に移されました。実際に贋造されたポンド札は1億3,200万ポンドにのぼるといわれています。
第80回アカデミー賞外国語映画賞 オーストリア代表作品です。