副題は「獄医立花登手控え(一)です。全部で四巻から成り立っているこの最初の巻には7つの短編が納まっていました。
江戸小伝馬町の牢獄に勤める青年医師・立花登は、叔父をたよって上京し、居候先の家では口うるさい叔母と驕慢な娘にこき使われ肩身の狭い身ですが、柔術の達人です。獄舎に持ち込まれる難事件を冴えた推理と起倒流柔術の妙技で解決していきます。
まさに、「獄医」という皮をかぶった「名探偵」です。
そして、「用心棒日月抄」等の連作短編集等でおなじみの藤沢周平氏の自家薬籠中の物となっている心にくい技がこの作品でもいかんなく披露されています。物語の展開が縦横に紡がれた面白さなのです。
獄中の囚人たちとの接触の中で起こる様々な事件を解決していくことを縦糸に、主人公が成長し、やがて四巻の最終章で、最初は鼻持ちならなかった叔父の娘(従妹)のおちえと結ばれるまでを、横糸に、物語が縦横無尽にからまりながら進んでいくのです。
一巻でも、歩みはのろいですが、徐々に登の居候先での立場が向上していきます。そういう田舎出で遠慮深い若者が少しづつ自分の居場所を固めていく成長物語がなんともほほえましいです。
プラス、小伝馬町から浅草、深川、日本橋界隈の江戸の風と江戸っ子の人情を堪能できる作品です。
来週から、3月の左膝手術に続いて、右股関節の人工関節置換手術を予定していますが、約2週間+3日の入院中、手術後の痛みをこのシリーズの二巻~四巻で紛らわせようと思っています。
余談ですが、1982年に中井貴一主演で”立花登「青春控え」”という名のNHKドラマとして放映されていたようです。 約30年前の「長倉和平さん」はさぞかし若かったのでしょうね。