三国志から遡ること600年の春秋時代末期の揚子江流域である華南の地に、宮城谷ワールドの新たな地平が出現します。
超大国である中原の晋と南の超大国楚の対立構図から、やがて力の拮抗は江水(揚子江)の北西の楚と東南の呉に移ります。呉は晋と連携し楚を脅かすことになります。そんな折、呉の南方から突然越という国が登場し呉との死闘を繰り広げることになります。「呉越同舟」や「臥薪嘗胆」等の成句で有名な呉越春秋時代の物語です。
「越王勾践に覇を唱えさせた名将・范蠡(はんれい)の類稀な生涯を壮大なスケールで描く。」という謳い文句ですが、物語は楚の太子の宰相五奢の次男坊伍子胥から始まっていました。
第1巻は、2010年7月26日、以下第2巻、2011年7月26日、第3巻、2012年7月26日に発行されています。第4巻が、2013年7月26日に発行予定です。手元に3巻あってざっと見る限り、まだ伍子胥は楚にいて父や兄が讒言によって処刑されるシーンが描かれていました。越王勾践に覇を唱えさせた范蠡(はんれい)の登場はまだずっと先のようです。この物語も「宮城谷三国志」同様長い小説になりそうです。
今、BSフジで毎日「孫子兵法大伝」を観ています。そちらのTVドラマは、楚と呉の争いで、楚から呉へ亡命した伍子胥が、呉の将軍として楚を滅亡寸前まで追んだところです。楚に大勝した褒美として伍子胥が望んだことは、積年の恨みを晴らすため、楚王の墓を暴いて王の屍に鞭を振るうことでした。その春秋時代の有名なエピソードが丁度放映されたばかりです。小説の進行が今のペースだとこのシーンに至るのは、第5巻か6巻くらいになるでしょう。毎年1巻の刊行ですので、来年か、再来年に読めそうです。
伍子胥は、父に向かってまっすぐに言います。「善をなすふりをして悪をなすことほど、悪いことはないとおもいます」父・伍奢は「この子を教えるのは、人ではなく天だ」と思います。
楚の人、次男坊伍子胥は堂々たる体躯で将来を嘱望される青年です。父五奢は、王に重用され要職をつとめています。伍子胥は、呉との国境近くの邑・棠を治める兄・伍尚を助けるため船に乗り、江水を往きます。強い信念をもち、父兄を尊敬する伍子胥は、地位や身分を越えてさまざまな人と出会い、歩むべき道を探していました。 その旅の途中、そして旅先で、将来讒言によって父と兄を処刑に追い込む費無極とすれ違いますが、まだ大きな事件は起きません。窮地に追い込まれそうになりますがなんとか切り抜けます。有能な家来を得たり、将来大きく関わることになる瀕死の孫武を助けたりします。
第1巻で琴線に触れた文章です。
「おのれを視すぎて、天を見ることを忘れないことだ」「天に許される。天におのれをまかせる。偉くなる人は、かならずそういうときがある。」「天にすべてをゆだねてしまえばよい。天に必要とされる者は、死地にあっても活かされ、窮地から抜け出ることをゆるされる。おのれの能力を過信しないことだ。」
「わかった。求めつづけよう。このたびのことも、不運から逃げるのではなく、求めつづけるきっかけを与えてくれたと思われるようになった。永翁、あなたは良き師だ。」