「世界から猫が消えたら」の作者の川村元気さんは、『告白』『悪人』『モテキ』など数々のヒット映画を世に送り出してきた映画プロデューサーです。
「世界から、もし電話、映画や猫が突然消えたとしたら。この世界はどう変化し、僕の人生はどう変わるのだろうか。」なんてことを考えさせます。
荒川弘の漫画「鋼の錬金術師」のテーマでもある「等価交換」の法則に沿った小説となっていました。「何かを得ようとするならそれと同等の代価が必要」ってことです。
「何かを得るためには、何かを失わなくてはならない。」という守らなくてはならない原則に従って、アロハシャツを着た陽気な悪魔から明日の命と引き換えに、電話、映画、時計、猫、そして僕自身を消して一日一日を生き延びる命を手に入れます。そしてそれら消したものの存在事由を考えさせられる機会をもらって自分の人生に洞察が加えられていきます。
この本の冒頭でもちょっと触れていましたが、昔、「死ぬまでにしたい10のこと」という映画がありました。女主人公が残された短い命を知って、強い意志で次から次へ自分の書き出したリストを実行していく心暖まる物語でした。夫に自分の代わりになる後妻を紹介するとか夫以外の男を自分に夢中にさせるとか、娘に誕生日のメッセージを送り続けるとかということがリストにされていたと記憶しています。
この「世界から猫が消えたなら」の主人公は、「死ぬまでにしたい10のこと」の主人公と違って、ひたすら受け身です。「死ぬまでにしたいことって10個もないですよ。それにあったとしても、つまんないことですよ。」なんてぼやいています。
小説としてのカタチをなしていない感じがしますが、映画には仕立てやすい構成になっていました。
琴線に触れる表現も多くありました。
「死と同じように避けられられないものがある。それは生きることだ。死と生は等価であるけれど、今の僕はあまりにもそのバランスが悪すぎる。・・・・どんなものでも、そこに存在することには意味があるのだろう。」
「人は自分の死を自覚したときから、生きる希望と死への折り合いをゆるやかにつけていくだけなんだ。無数の些細な後悔や叶えられなかった夢を思い出しながら。でも、世界から何かを消す権利を得た僕は、その後悔こそが美しいと思える。それこそが僕が生きてきた証だからだ。」