ハイレベルなスパイ・サスペンスです。英国情報局秘密情報部(M16 , 別称サーカス)内に潜む「腐ったりんご」、もぐらと呼ばれるソ連の二重スパイ探索というテーマをを扱いながら、007シリーズのような派手なアクションは一切なく、静かで孤独でそして渋い、美しい映画でした。
ゲイリー・オールドマンがこの映画でオスカー主演男優賞にノミネートされたときに、M16の指揮官 コントロールを演じたジョン・ハートが言ったそうです。「ぜひ取らせてやりたいがアメリカ人には難しい映画だからな」と。
登場人物の多さ(名前で呼んだり、苗字を呼んだり、ニックネームだったり??)、会話の少なさ、美しいものの複雑な映像情報の多さ、時間軸が大胆にシャッフルされた回想シーンの連続で、受け身になることが許されない緊張感が強いられる映画でした。
DVDで何度もプレイバックしながらもう一度観ました。
登場人物の相関図の複雑さがやはり大きな問題でした。退職後ほどなく病死したコントロールは、M16幹部の5人のなかにもぐら(ソ連の二重スパイ)がいると推測していました。小男で童顔だけど野心家のテインカーことパーシー・アレリン(トビー・ジョーンズ)。頭の切れる伊達男のテイラーことビル・ヘイドン(コリン・ファース)。大男の「ソルジャー」ことロイ・ブランド(キアラ・ハインズ)。おとなしげで任務に忠実なプアマンことトビー・エスタヘイス(デヴィッド・デンシック)。そしてなんとコントロールの右腕だったベガ・マンことジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)までもが疑いの眼を向けられていたのです。これにハンガリー・ブタペストの作戦で被弾し死亡したとされていた工作員ジム・プリドー(マーク・ストロング)とイスタンブールで諜報活動中、東側へ寝返ったと思われていたリッキー・ター(トム・ハーディ)が複雑に絡み合ってきます。
ネタバレ情報になりますが、この濃厚なミステリーの鍵は、男女問わずに愛人関係をもつことのできるテイラーことビル・ヘイドンの複雑な人間性、もぐらの背後にいるソ連の大物スパイが所持するスマイリーの妻アンがスマイリーに贈ったライター、一見献身的なジム・プリドーが教師をやっている教室でストーブから飛び出してきたふくろうを生徒の前でたたき落とす突発性の残虐さ・・・あたりでしょうか?
神経衰弱というトランプ・ゲームのような気の抜けない映画です。気を抜くと置いて行かれますよ。