書評家の北上次郎氏がこの作品に対して「こんな素敵なラストにたどりつくなんて誰が想像するだろうか」と絶賛していました。
最近、辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ」や宮部みゆきの「ソロモンの偽証」等、中学生が主人公の小説にはまっていますが、この「私を知らないで」も中学生が主人公です。
転勤族の父親のために転向を繰り返している中学生の「僕」が横浜の学校に転入してくるところから物語は始まります。 そして、続いて転入してきた高野君が「目立たず、媚びず」という「僕」が重なる転校経験から学んだ転入生の鉄則を無視することに驚かされます。
クラスには「キヨコ」という転入生の目からすると驚くほどの美人がいるのですが、家庭の複雑な事情を抱え、無表情で暗くて、クラスでは無視されています。「僕」にも実は秘密があり、「孤独」な陰を持つキヨコに強く惹かれますが、クラスの空気を敏感に感じてキヨコに近づけません。
「テンネン」の高野君はクラスの空気は気にならないらしく、ストレートにキヨコに興味を持ちます。転入生同士の「僕」に呼びかけてキヨコに纏わるいかがわしい噂の真相究明に乗り出すところからこの物語は予想のつかない展開を繰り広げていきます。これ以上は言わぬが花でしょう。読んでその物語の構成の妙とキヨコの言葉と行動に驚いてください。
私も、小学校、中学校と転校を多く繰り返したうえ、母子家庭でしたので、この「僕」の考え方に共鳴する部分が多くありました。そして、読み終わって、私も「キヨコ」に強く魅せられてしまいました。
この作家の物語るセンスは素晴らしいです。