葉室麟さんの随筆です。
葉室麟さんは私とほぼ同時代です。「柚子は9年で」の随筆を読むと、貸本屋時代の3大スター、手塚治虫、水木しげる、白土三平の記述があったり、大きなタイヤチューブを浮き輪に海水浴をしたり、共有できる昔の一コマ一コマの情景を描いてくれています。
氏が最初に歴史小説に興味をもったのが中学校時代で、作品は吉川英治氏の「黒田如水」だったそうです。黒田官兵衛(如水)に魅かれ、氏自身で「風渡る」や「風の王国」の小説を書かれています。官兵衛は熱心なキリシタンだったそうで、その切り口で、官兵衛が目指したのは天下ではなく、キリシタン勢力圏の回復だったのではないかというテーマをそれらの小説にまとめあげています。
さ来年のNHKの大河ドラマは「軍師官兵衛」で官兵衛役はV6の岡田准一と発表されました。
黒田官兵衛は、信長、秀吉、家康に重用されながら、有り余る才能ゆえ、それら天下人から警戒され、秀吉には自分の次の天下人とまで恐れられた男です。
播州姫路に生まれ地方大名の家老から、信長の信任を勝ち取り、権謀術数渦巻く戦国時代に巧みな弁舌と軍略で、豊臣秀吉の天下統一を演出します。
和歌、茶の湯に通じた文化人でクリスチャンでもありました。ただ一人の妻と添い遂げました。
史上最強の軍師は、乱れた世を正すために時代が必要としたものかもしれません。
司馬遼太郎氏の「播磨灘物語」等を読むと若い頃の官兵衛はひたすら信義を貫く律儀者として描かれますが、本能寺の変の後あたりからの秀吉の懐刀としての活躍はこれが同一人物かと思えるくらいの凄みを帯びてきます。
欲得とか栄達欲が薄く、自分を自由の境地においていたからこそ、物事の道理がよく見えていたのかもしれません。水の如しと称したこの男は、人生など水の上に書いた絵のようなものだと思っていたのかもしれません。
大国毛利と新興勢力織田に挟まれた小寺家の若き軍師が成長していく筋立てに、軍事大国中国と米国に挟まれた小国日本の外交力の貧困さを重ねてしまいたくなります。いまこそ黒田官兵衛のような人物が求められます。
さてさてどんなドラマになるのか2014年が楽しみです。