さまざまな少年の物語を集めた短編集です。伊集院静氏は1950年山口県生まれで私と同郷で年もほぼ一緒です。
昨年、氏の「羊の目」という長編を大変面白く読んだ記憶があって、この短編小説を買いました。まだ戦後の日本で生活の苦しさという時代背景や、他人の家に預けられる少年の感性等がよく描けていました。
なかでも「トンネル」という10ページ少々の短編には、下松「くだまつ」、富海(とのみ)の浜という地名や光市室積町にある(あった?)「山附」小学校(山口大学附属小学校)の名前がでてきており、氏の描く、少年の感受性と自分が生まれ育った地名に自分の少年時代の思い出等が重なって妙に印象深い小説となりました。
ちなみに私は、「山附」は落第して、「室積小学校」でした。「トンネル」の中で老婆が「山附」の学生服を見て、少年に対して「よく勉強なさるんですな。(元総理大臣の)岸さんも佐藤さんも山附で勉強をなさいましたからの」という科白がありました。近所から総理大臣が二人も出ており、末は博士か大臣かという言葉を無邪気に信じていた少年時代でした。振り返ってみれば、博士にも大臣にもなれませんでしたが、人生、最初の挫折を山附の落第は教えてくれました。