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映画「マルクス・エンゲレス」_マルクス生誕200年にあたってマルクスとエンゲルスの友情と成長の物語

f0090954_13061776.jpg久しぶりの神保町「岩波ホール」で観ました。

私の姪がドイツのトリアで働いていた日本人男性と結婚したため、約10年前に、そのトリアの姪の住む家を訪ねたことがありました。

ライン川からモーゼス川が分離する駅からモーゼス川に沿って西に向かう列車に乗って隣国ルクセンブルクに一番近い駅がトリアでした。

ローマ時代の遺跡が多く残る、歴史のある街という印象を持ちましたが、この映画を観るまで、その古都トリアにカールマルクスの生家があったことは知りませんでした。

映画の中で、マルクス役の役者(アウグスト・ディール)がそう語っていました。字幕は「トリーア」になっていました。

マルクスは共産主義を説いたこともあり、トリアにある何の変哲もない彼の生家には、冷戦体制崩壊以降、ほぼ唯一の共産国となった中国の旅行者が「聖地」として多く訪れており、そこには中国語で「熱烈歓迎」と書いてあるそうです。

今年は、マルクス生誕200年に当たるそうで、5月5日の彼の誕生日に合わせてトリアでは記念イベントが目白押しだったそうです。(中国からトリアの生家の広場ににマルクスの高さ5.5mのブロンズ像が贈られたとか)

共産主義の理念を確立したカール・マルクスと、彼の盟友フリードリヒ・エンゲルス(シュテファン・コナルスケ)の20代のお話で、彼ら経験の浅い若造が労働運動団体の1つである「正義者同盟」(後の「共産主義者同盟」)の中で頭角を現し、1948年の名著「共産党宣言」が生まれるまでの過程を描いていました。

1840年代のヨーロッパは産業革命が社会構造の歪ませ経済格差を生み出していました。貧困の嵐が吹き荒れ、不当な労働条件が蔓延る社会にいらだちを覚えていた26歳のカール・マルクスは独自の経済論を展開しまするが、その過激な言動により妻イェニー(トリアの貴族階級出身、役者はヴィッキー・クリーブス・・・5月26日からシネスイッチ銀座等で公開予定の「ファントムスレッド」にダニエル・ディ=ルイスと共演しています)とともにドイツ政府から国を追われます。フランスへとたどりついたマルクスは、パリでフリードリヒ・エンゲルスと出会います。それはのちに、これまでになかった新しい労働運動を牽引していく2人の運命的とも言える出会いでした。

彼らにとって資本家とか権力者だけが敵ではなく、理論を弄んでいるだけの労働運動の幹部や啓蒙家なども議論で負かしてしまう様子が描かれており痛快でした。

マルクスの妻のイェニーが貴族階級の出身者であったこと、マルクス夫妻に経済的援助を惜しまなかったエンゲルスの父は紡績工場の経営者だったこと、そのエンゲルスの妻がアイルランド出身の女工という設定もそのアンバランスさが小気味で印象的でした。

エンド・クレジットで流れるボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」に乗って20世紀の様々な事件・時代を象徴する人物(チェ・ゲバラ、ムルンバ等)が映し出されたのも印象に残りました。

監督は「ルムンバの叫び」のラウル・ペックです。5月12日からヒューマントラスト・シネマ有楽町で公開されている「私はあなたのニグロではない」の監督でもあります。

近代革命といえば、1789年のフランス革命と1917年のロシア革命の間に、1848年革命があります。

1848年革命は、フランスの2月革命を皮切りに、オーストリアやプロイセンなどヨーロッパ各地で相次いだ、君主制国家に対する民衆の革命運動です。

ヨーロッパの革命的情勢がますます切迫したものになっていたにもかかわらず、マルクスの「共産党宣言」の執筆は遅々としていたシーンも映画に出てきていました。

そしてこれは映画には出てきていませんでしたが、「共産党宣言」は発行された直後に1848年革命が起きたために、長らく入手が困難な状況におかれたそうです。

マルクス・エンゲルスの「共産党宣言」が1848年革命の起爆剤となったというよりも、1848年革命に向けての社会運動の広がりを反映して二人の若者が「共産党宣言」を著したというところが実態だと思います。

共産主義運動は時代は少し離れますが、ロシア革命を生み多くの社会主義国を誕生させました。こうした動きにこそ「ヨーロッパに幽霊が出るー共産主義という幽霊である」という有名な書き出しで始める「共産党宣言」は大きく影響を及ぼしたのだと思います。(1848年に生まれた「共産党宣言」は、その後ドイツ語版(1872年、18883年、1890年)、ロシア語版(1882年)、英語版(1888年)、ポーランド語版(1892年)、イタリー語版(1893年)と版を重ねていきました。)

しかし、マルクス達が思い描いた階級も搾取もない社会の実現には至っていません。 (人間の心に潜む権力欲、所有欲を抑制する術はないのでしょうか?)

一方、資本家 vs 無産階級の図式も19世紀以来何も変わっていません。

面白い映画でしたが、マルクス生誕200年にして、彼らの成果物はその後の世界を大きく変えたものの理想には程遠い現実を突きつけられた感じもしました。


# by zoompac | 2018-05-25 05:44 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

映画「孤狼の血」_広島弁炸裂の「仁義なき戦い」の警察官版映画誕生!

f0090954_05553081.jpgいやいやびっくり、柚月裕子原作のイメージが吹き飛びました。それだけ強烈なインパクトの映画でした。

主人公こそ、警察官ですが、これは東映のヤクザ映画の金字塔「仁義なき戦い」の復活作品といっていいでしょう。

私は個人的に、「仁義なき戦い」での小林旭の切れのある広島弁と金子信雄の得体のしれない下品な演技が大好きでしたが、この映画では役所広司が1人で切れのある広島弁と得体のしれない下品さを演じていて感激しました。

昭和63年の広島が舞台です。あの「仁義なき戦い」から20年後の物語となっています。舞台となった呉原市のモデルは呉市です。繁華街のロケ地は呉市の中通り商店街だそうです。

血で血を洗う抗争は終息したものの、火種がまだ燻ぶっていました。地場の暴力団「尾谷組」(組長尾谷_伊吹吾郎は鳥取刑務所に服役中、若頭一ノ瀬を江口洋介)と巨大組織(仁成会の五十子(いらこ)会、会長は石橋蓮司)を後ろ盾にするこれまた地場の暴力団「加古村組」(若頭_竹ノ内豊)の対立があったのです。

そんな緊張した対立構図の中で、加古村傘下の金融会社の社員が失踪したことから、マル暴のベテラン刑事大上(オオガミ=狼)と新人刑事日岡(松坂桃李)が事件解決に奔走することになります。パチンコ屋で大上からけしかけられて加古村組の組員に”いちゃもん”をつけにいった日岡が片手にコーヒを持ち、パチンコをしながら牛乳を飲んでいた組員にぶつかるのですが、コーヒーと牛乳が合わさってコーヒー牛乳になった様には笑えました。

話が進むにつれ、この大上という刑事はヤクザ顔負けのとんでもない悪徳警官であることが浮き彫りになってきます。

「警察じゃけえ、何をしてもええんじゃ!」

「奴ら(ヤクザ)を生かさず殺さず、飼い殺しにしとくんがわしらの仕事じゃなーの。飼い主に逆らいよったら、力づくで手なずけりゃええんじゃ。」

彼の常識外の行動は、暴力団の抗争と相まって警察組織を揺るがすものになっていきます。そして広大出の学士警官日岡には広島県警警視役の滝藤賢一から内偵目的で大上の相棒に任命されたいきさつがありました。

しかし、「ヤクザをやらせりゃみな名優!」というのもまんざら的外れではないですね。

底知れぬ迫力をもった暴れまくりの役所広司、切れ味鋭い生一本さをみせた江口洋介、既存イメージを覆した竹野内豊、既存イメージといえば爽やか系二枚目俳優の殻を脱ぎ捨てて「不能犯」「娼年」に続いて「孤狼の血」に挑んだ松坂桃李の演技にも脱帽でした。この映画の中の日岡と共に、松坂桃李の成長ぶりに感服させられました。

東映の60年代は、私が大学生でしたが、高倉健を中心とする「任侠映画」の全盛期でした。

その後の70年代は、「仁義なき戦い」が大ヒットしました。その頃の東映を知る石橋蓮司が、小狡いヤクザの代名詞のような金子信雄を彷彿させる演技をしていました。

原作者の柚月裕子が、この映画の、クラブ「梨子」(ママは巨乳「真木よう子」)でのシーンのホステスの後ろ姿が映ったワンカットに言及し、金子信雄だったら「えぇ、ケツしとるのぉ!」の台詞が入るところだと言って笑っていました。卑猥さという点ではまだまだという感じの石橋蓮司ですが、それでも「びっくり、どっきり、XXXXX」という下品な決め台詞はさまになっていました。

余談ながら、広島弁で女の人は自分のことを「うち」、男の人は「わし」といいます。助詞をつけると女の人は、「うちゃー」、男の人は「わしゃー」です。

「わしゃー、冒頭の養豚場での惨劇に胸糞悪ぅなったでよ~!」というくらいこの映画の暴力シーンには歯止めがかかりません。豚のアップされた肛門から糞がひり出されます。その糞が暴力を振るわれている人間の口に詰め込まれるんですよ。

「今の日本映画は、やり過ぎくらいがちょうどええんじゃ! ぼけーっ!」という白石和彌(かずや)監督の声が聞こえてきそうです。

ブレーキ無しの暴走ヤクザX警察官映画「孤狼の血」は平成版「仁義なき戦い」といっても過言ではないでしょう。

原作者柚月裕子は、「孤狼の血」の続編として、すでに「凶犬の眼」を書き上げています。日本橋「丸善」に平積みされていました。

# by zoompac | 2018-05-24 05:56 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

映画「君の名で僕を呼んで」_青年同士のいわゆる「ひと夏の恋」@北イタリア

f0090954_18203628.jpg渋谷のBunkamuraのル・シネマで観ました。

長い間劇映画のクレジットに現れませんでしたが、アンドレ・アシマンの同名小説を原作とする2017年公開の「君の名前で僕を呼んで」で脚本を担当したのは、名画「日の名残り」「眺めのいい部屋」等のメガホンをとった名匠ジェームズ・アイボリーでした。

この「君の名で僕を呼んで」は、本年度のアカデミー主演男優賞に22歳のティモシー・シャラメがノミネートされて話題になりました。

他に、作品賞、脚色賞、歌曲賞にノミネートされていましたが、結果を出したのは、ジェームズ・アイボリーで、見事脚色賞を受賞しました。

監督は「胸騒ぎのシチリア」などで知られるシチリア生まれのルカ・グァダニーノです。

1980年代の北イタリアを舞台に、17歳と24歳の青年が織りなすひと夏の情熱的な恋の行方を、美しい風景とともに描いたラブストーリーです。

ティモシー・シャラメは6月1日公開予定のシアーシャ・ローナン主演の「レディ・バード」にも出演しています。ティモシー演じるエリオとのカップル役オリヴァーを演じたアーミー・ハマーは、2015年の「コードネーム U.N.C.L.E.」でイリヤ・クリヤキンを演じていたのが記憶に残っています。

映画の終わりに、エリオの両親、特に父親がエリオとオリヴァーの特別な感情に理解があった理由が判別します。わかる人にはわかるのでしょうが、私にはちょっとした驚きでした。

一緒に泳いだり、自転車で街を散策したり、本を読んだり音楽を聴いたりして過ごすうちに、互いに特別な思いを抱くようになっていくという、いわゆる「ひと夏の恋」の物語が描かれていました。

# by zoompac | 2018-05-23 05:39 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

午前十時の映画祭「地獄の黙示録」_ヘリーの爆音とワグナーの音楽の重なりが戦争の愚かさと狂気を強調して耳から離れない映画!

f0090954_06531671.jpgTOHOシネマズ日本橋で観ました。

舞台はベトナム戦争後期(1969年)のベトナム奥地から川でさかのぼったカンボジア奥地です。目的地まで川のぼりのロードムービーともいえます。そのカンボジアジャングル地帯には元グリーンベレー隊長のカーツ大佐(マーロン・ブランド)が米軍との一切の連絡を絶ち独立王国を築いているというのです。

アメリカ陸軍空挺将校のウィラード大尉(マーティン・シーン)は、妻と離婚してまで再びベトナムの戦場に戻ってきました。彼は、CIAによる要人暗殺の秘密作戦に従事してきた経験が豊富でした。その実績を買われて、サイゴンのホテルに滞在中、アメリカ軍上層部に呼び出され、元グリーンベレー隊長のカーツ大佐の暗殺指令を受けたのです。

ベトナム戦下、失踪したカーツ大佐の暗殺を命じられたウィラード大尉は、海軍の河川哨戒艇に乗り込み、乗組員に目的地を知らせぬまま大河を遡行していきます。そして、一行はその途上で戦争の狂気を目の当たりにするのです。

彼らの行き先の途上に南ベトナム解放民族戦線の拠点となっている海辺の村落があり、そこを突破して進む必要のあったウィラードからの攻撃要請に消極的だった前線の第一騎兵師団の指揮官が、その海がサーフィンに適していると知るや否や、俄然やる気を出します。9機の戦闘ヘリを飛ばして村落への攻撃を仕掛けた上、ナパーム弾をぶちこんで拠点を壊滅するのです。このときこの映画で有名となる台詞が発せられます。「朝のナパーム弾の臭いは格別だ」("I love the smell of napalm, in the morning.")といったものです。ナパーム弾の臭いとは引火したガソリンの匂いのようです。

この戦闘へりの出撃に指揮官がワグナーの「ワルキューレの騎行」という音楽をヘリの轟音にまさる最大ボリュームで鳴らし続けたのです。

その他、ジャングルに突如として出現したプレイメイトのステージでの観客が舞台に殺到する乱痴気騒ぎ。指揮官抜きで戦い続けるしかない最前線に置き去りにされた幽鬼のような兵士達。そして、麻薬に溺れ、正気を失ってゆく哨戒艇の若い乗組員たち。やがてカーツの王国に近づくにつれて、その乗組員たちも敵の銃弾や土人の槍の犠牲となりウィラード自身も少しずつ心の平衡を保てなくなっていきます。

哨戒艇の乗組員を何人も失いながらも、何とか王国にたどり着いたウィラードは、王国の支配者カーツと邂逅し、その思想や言動に動揺させられます。一時は監禁されたものの、改めて自由を与えられたウィラードは、水牛を生贄にする祭りの夜にカーツの暗殺を決行するといったストーリーでした。

ウィラードの任務遂行を通じてカーツに纏わる物語と戦争によって生じる狂気を浮き彫りにする構成となっていました。

ジョゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」が原作とされていますが、原作はベトナム戦争とは関係ありません。ベルギー王の私有地であったアフリカのコンゴを舞台に、船乗りの体験を描いたもので、「闇の奥」というタイトルはアフリカ奥地の闇でもありますが、人間の心の闇、西欧文明の闇をも示唆していたようです。

西洋植民地主義の暗い側面を描写したこの小説は、船乗りのマーロウの体験談を通して、コンゴ川を遡って、コンゴの奥地で象牙取引を一手に仕切っているものの会社本部との連絡を絶ち現地人に神と崇められているクルツ(Kurtz、英語読みでカーツです)なる人物に出会うまでのいきさつが語られるというものです。

なお、詳しいいきさつはわからないのですが、この地獄の黙示録で描かれるカーツは、日本が占領統治されたときの連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーがモデルだという説もあります。

当時のマッカーサーには大統領ハリー・S・トルーマンから米国史上空前の全権が与えられていました。

天皇と日本政府の統治権はマッカーサーに隷属しており、その権力を思う通りに行使できるとされ、必要であれば、直接行動してもよいし、出した命令は武力行使も含め必要と思う方法で実施できるとされていました。

アメリカ史上、後にも先にも、一人の手にこれほど巨大で絶対的な権力が握られた例はなかったため、しかもその権力を笠に着て大統領にも逆らい、自ら米国大統領に立候補しようと目論んだため、地獄の黙示録カーツのイメージと重なったのかもしれません。

そうなると、日本人はカーツを崇めたジャングルの土人ということになりますね。

ヘリコプターの轟音とワグナーの「ワルキューレの騎行」という音楽の重なりが耳から離れない、土人の祭りでの牛の屠殺場面とウィラードのカーツ殺戮場面の重なりが脳裏から離れない、ベトナム戦争(と太平洋戦争)の狂気が心に染みつく感じの強烈なインパクトを感じた映画でした。




# by zoompac | 2018-05-22 06:57 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

読書「Shoe Dog 靴にすべてを」フィル・ナイト_アスリートファーストの靴づくりに徹したナイキ創設者たちのシュー・ドック魂の半生記!

f0090954_14122044.jpgナイキ創業者フィル・ナイトの自伝・半生記です。 痛快にして波乱万丈のシュー・ドッグぶりが描かれていました。

Shoe Dog(シュー・ドッグ)とは、靴の製造、販売、購入、デザインなどすべてに身を捧げる人間のことです。靴の商売に長く関わり懸命に身を捧げ、靴以外のことは何も考えず何も話さない。そんな人間同士が互いをそう呼び合っていると文中で説明していました。

ちなみにブランド名のナイキはギリシア神話の「勝利の女神」の名だそうです。

ナイキの共同創業者で前会長のフィル・ナイトはオレゴン州ポートランド生まれです。後になって名門スタンフォード大でMBAを取得していますが、オレゴン大時代は陸上競技をやっていたアスリートでした。彼の陸上競技時代にコーチをしていたのが、後にミュンヘンオリンピック(例のパレスチナ武装組織「黒い九月」にイスラエルアスリート11人が殺害された1972年の五輪大会)等で米国陸上選手の五輪コーチとなったビル・バウワーマンです。彼が共同創業者の片割れです。

もとはといえばフィル・ナイトの単純な発想からビジネスが出発しました。

昔ドイツの独壇場だっや世界のカメラ市場に日本が参入して成功したことから、1962年にフィル・ナイトが思いついたのが、日本のランニング・シューズでした。当時スポーツシューズはドイツのアディダスとプーマという兄弟会社の独壇場だったのです。

「世界は馬鹿げたアイディアでできている。歴史は馬鹿げたアイディアの連続だ。」という言葉をフィルは信じていました。

そこでフィルは世界一周旅行の途中日本に立ち寄って、日本人に自分の馬鹿げたアイディアを売りつけました。

神戸まで足を運び、オニツカ(後のアシックス)の経営陣に、「みなさん、アメリカの靴市場は巨大です。まだ手つかずです。タイガーを店頭に置き、アメリカのアスリートの多くが履いているアディダスより値段を下げればものすごい利益を生む可能性があります!」

オニツカの米国市場の販売代理店を経営したい旨を訴え、シューズを何足か送ってもらう約束をしました。

オニツカから送ってもらったシューズをバウマーワンに相談したところその品質の良さを見抜いた彼から共同経営のパートナーシップの申し出を受けたのです。

当初は「ブルーリボン」というオニツカ・タイガーブランドのスポーツシューズの米国販売代理店ビジネスでした。

昨年、役所広司、竹内涼真、寺尾聡等が出演した「陸王」というドラマがありました。陸上競技のランニング・シューズ製造に埼玉県行田市の老舗足袋メーカーが乗り出す物語でした。その物語の中で、シュー・フィッターという専門職があることを知りました。ドラマでは市川右團次が村野尊彦(むらのたかひこ)というシュー・フィッターを演じていましたが、この村野には実在のモデルがいました。

元アシックス(オニツカ)の社員の三村仁司氏です。

創業者鬼塚喜八郎が死去した2007年にアシックスを辞めましたが、そのときまでに瀬古俊彦、森下広一、有森裕子、高橋尚子、野口みづき、イチローなど名だたるアスリートの靴づくりに携わっていました。アシックス退社後は独立し、2010年にはアディダス・ジャパンと契約を結び活躍してきましたが2017年に契約解除となっています。

実は、ビル・バウワーマンは選手たちのコーチでしたがシュー・フィッターとしてアドバイス経験も豊富でした。靴のソールをワッフル形状にするアイディアなども出して商品化したのも彼でした。

やがてオニツカから乗っ取られそうになったことなどから、ブルーリボンはオニツカの代理販売を辞め独自ブランドを打ち立てることになりますが、それがナイキでした。アメリカ人アスリートの足を研究し、日本のメーカーに靴の設計提案などをしていたノウハウの蓄積があったからこそできた離れ業でした。

ナイキの創業当時の仲間たちはまさにシュー・ドッグでした。ただの金儲けのためではありません、誰にどんな走りをしてほしいのかといった走りに対する思想や哲学を持っていました。アスリートファーストに徹していました。

しかし、この本を通じて、フィル・ナイトの波乱万丈ぶりは、むしろ金策でした。ナイキは常に流動資産の不足に悩まされ続けたのです。

売り上げは順調に伸びるのですが、スポーツシューズの需要が常に供給を上回っていることから、手元にお金が溜まる間もなく、常にそれ以上の借金をしながら発注を続ける自転車操業でした。

地元のファーストナショナル銀行やバンクオブカルフォルニアにとっては、ナイキは「地雷」のように恐ろしい顧客でしたが、日本の商社「日商岩井」は「金脈」と信じていたようです。

資金ショートに悩まされるフィル・ナイトの事業を先見の明から支援し続けてくれたのは日商岩井でした。

何よりも、それを履くアスリートの立場になって靴を作り続けたシュー・ドッグ魂と、そしてその可能性をしっかり見届け支援を惜しまなかった日本の商社の支援が今のナイキを創り上げました。

バスケットシューズに空気を入れるという新しい発想の靴も爆発的に売れましたが、今、ナイキはマラソン界にも新しい概念の靴を持ち込んできました。

大迫傑の所属が「ナイキ・オレゴン・プロジェクト」であることを知っている人は多いと思います。

ナイキは2017年5月にマラソン用に新しいシューズを発表しました。「ヴェイパーフライ4%」というものすごくソールの分厚い靴です。

その5月の市場への発表前の2017年4月のボストンマラソンで3位入賞の快挙を成した大迫傑選手は、その分厚いシューズを履いていたとのことです。

2017年9月には、設楽悠太選手(ホンダ)が、この靴でチェコのハーフマラソンを走り、日本新記録を叩き出しました。さらに1週間後、ベルリンで2時間9分台の自己ベスト。日本新記録を出すほど走って、翌週フルマラソンでまた記録を出しました。

さらに、2017年12月の福岡国際で大迫傑は2時間07分19秒で走って日本人1位全体3位の成績を収めました。一方、設楽悠太は2018年2月25日の東京マラソンを2時間06分11秒で走り16年ぶりに日本記録を更新しました。

試し履きした人によると、ナイキの新作のシューズは、かかとが厚いのでまっすぐ立つと前かがみになり、勝手に走らされるのだそうです。

日本人は薄い靴でぺたぺた走るミッドフット走法に馴染みがありますが、このナイキの靴で走ってみると、足の前のほうから着地するフォアフット走法になる。必然的に、全速力で足をさばいていくことになるのです。

TVドラマ「陸王」の足袋ランニングシューズもこのミッドフット走法に適しているという設定だったと記憶しています。

大迫選手はこの靴に合わせてフォアフット走法に切り替えたそうです。そして今のところ結果を出しています。

このナイキの新型シューズは大学駅伝にも影響しました。

優勝したのは、三村仁司さんの走りを追求したアディダス製のシューズを履いた青山学院でしたが、ナイキの新型シューズを取り入れた東洋大学が往路優勝を飾るという予想外の健闘をみせました。

この「Shoe Dog」帝国の新型のランニング・シューズが日本のマラソン界だけでなく駅伝界にも新しい旋風を呼び込もうとしています。

靴の革命によって選手の走法にも革命を起こそうかというナイキの靴づくりの根底の考え方に触れるのにこの「Shoe Dog」はお勧めです。 ただしこの新しいマラソンシューズの話は最近のことですのでこの本では紹介されていません。


# by zoompac | 2018-05-21 05:10 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

映画「モリーズ・ゲーム」_アスリートからゲームルームのオーナーに華麗に転身した女性の矜持をジェシカ・チャスティンが男前に示してくれています!

f0090954_15480307.jpg昨日、ブログにアップした「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」も、トーニャ・ハーディングもトップ・フィギュア・スケーターから転落し、女子ボクサーや格闘家として第二の人生を歩みました。その後もたくましいですね。

2014年、ESPNのドキュメンタリー番組"30 for 30"でナンシー・ケリガン襲撃事件を扱い、当事者として出演しています。番組タイトル名は"The Price of Gold"(金メダルの代償)。同じく2014年2月、NBCでナンシー・ケリガン襲撃事件の回顧番組が放送されました。

そして、2017年、伝記映画『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』がアメリカで公開されました(日本では2018年5月4日公開)。2018年1月11日、ABCでは"TRUTH AND LIES Tonya Harding Story"という番組が放送され、本人やナンシー・ケリガンら多数の関係者が出演しました。

自分たちが引き起こした事件を題材にした作品に登場したり関与したり、ただでは転ばぬオレゴン魂(オレゴン州ポートランド出身)をみせられたような気がします。

この「モリーズ・ゲーム」の主人公モリー・ブルームは、モーグルの選手として五輪出場も有望視されていましたが、試合中の怪我でアスリートの道を断念します。こちらも実話です。

そして、この映画の原作本を書くことでお金を稼いだところが、トーニャ・ハーディングの映画作品への関わり方と似ていました。

怪我をした後、ロースクールへ進学することを考えていたモリーは、その前に1年間の休暇をとろうとロサンゼルスにやってきます。お金を稼ぐためです。

そこでウェイトレスのバイトで知り合った人々のつながりから、ハリウッドスターや大企業の経営者が法外な掛け金でポーカーに興じるアンダーグラウンドなポーカーゲームの運営アシスタントをすることになりました。

その才覚で顧客を掴み26歳にして自分のゲームルームを創設し華麗な転身を果たしたモリーでしたが、10年後、FBIに逮捕されてしまいます。

この逮捕が言いがかりで、FBIの狙いはゲームルームに出入りしていたロシアマフィアのリスト等を入手したかったことが後になって判明します。

その逮捕の翌年に刊行されたのがこの映画の原作となったモリーズ・ブルームの回想録「モリーズ・ゲーム」です。

全財産を違法だとFBIに没収されたモリーにとっては、借金を返済するためにお金が入用だったのです。

その借金も実はゲームに負けた顧客がその掛け金を立て替えたモリーに払ってくれなかったために生じたものでした。負けた客の未払金の取立て権利を第三者に売らずに彼女は自分で抱え込んだのです。

映画では実名は出てきませんが、原作にはモリーのポーカーゲームに参加した有名人として、ハリウッド俳優のトビー・マグワイア、レオナルド・ディカプリオ、ベン・アフレック、映画監督のトッド・フィリップス等の名が実名で登場しているとのことです。TBS「王様のブランチ」の情報では、マット・ディモンもその中に含まれていました。

こう書くと、暴露もののように見えますが、さにあらずです。情報を秘匿されなければならない顧客の名を彼女は裁判で不利な判決となるのも厭わず守秘しています。映画ではそのあたりの誤解を避けたくて有名人俳優の実名は伏せたのだと思います。

彼女はFBIや裁判官からの圧力に屈することなく、顧客の借金と共に、顧客の秘密も守り通しました。

最後のどんでん返しを楽しんでください。互いに手の内をさらさないFBIとモリーの裁判での結果を賭けた大きなポーカー・ゲームといった側面を併せ持つ映画でした。

それにしてもジェシカ・チャスティンは、この作品も含めて「ゼロ・ダーク・サーティ」、「女神の見えざる手」等、男前の役に恵まれていますね。




# by zoompac | 2018-05-18 07:16 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

映画「アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル」

f0090954_14135507.jpgアメリカ人のフィギュアスケート女子選手として初めてトリプルアクセルに成功し、1992年アルベールビル、94年リレハンメルと2度の冬季五輪にも出場したトーニャ・ハーディングのスキャンダラスな半生を描いた映画でした。

余談ながら、世界で初めてトリプルアクセルを成功したのは、伊藤みどりです。彼女は1992年アルベールビルで銀メダルを獲得しています。そのときの優勝者は日系アメリカ人のクリスティ・ヤマグチでした。そしてそのとき銅メダルを獲ったのが、トーニャのライバルのナンシー・ケリガンでした。

「スーサイド・スクワッド」のハーレイ・クイン役で一躍世界的にブレイクしたマーゴット・ロビー主演で描いたドラマでしたが、ドラマ部分と俳優が襲撃事件についてインタビューに応じて事件を振り返るというドキュメンタリータッチの部分が交互に挟み込まれてなかなか面白い構成でした。

インタビューを通じて事件関係者のそれぞれの言い分が食い違っていることも面白かったです。黒澤明の映画作品「羅生門」のシーンを思い出しました。

ドラマ部分では、貧しい家庭ながら怪物のような実母に厳しく育てられたトーニャが、努力と才能でフィギュアスケーターとして全米のトップ選手への上り詰めていく様が描かれていました。

92年アルベールビル五輪に続き、94年のリレハンメル五輪にも出場しましたが、元夫のジェフ・ギルーリー等?が、トーニャのライバル選手を襲撃して負傷させた「ナンシー・ケリガン襲撃事件」を引き起こしたことから、トーニャのスケーター人生の転落が始まりました。

娘のスケートの才能で貧乏から脱却しようとする怪物としかいいようのない母親を演じたアリソン・ジャネイが第90回アカデミー賞の助演女優賞を受賞したことでもこの映画は話題になっていました。

練習中に尿意をもよおした娘にトイレに行くことを許さず練習を強要したシーンが強烈でした。

トーニャ役で主演したロビーは、スケートシーンにも挑戦していました。まさかと思うのですが、トリプル・アクセルを実際に跳んでいたように見えました。ご丁寧にロビーの顔がジャンプするシーンのスロモーション画像も出てきていました。CG撮影だったようです。

トーニャ本人のフィギュアスケートシーンがエンディング・ロールに挟み込まれていましたが、その本人の画像に比べて演じたロビーの下着がTパンのように細かったその大きな違いも印象に残りました。

日本でも、2017年のカヌー・スプリント競技の日本選手権で同年の世界選手権にも出場した男子選手がライバルとなる選手の飲み物に禁止薬物を混入させた事件が発覚した事件が、今年1月に報道されていました。被害選手はドーピング検査で陽性となり、潔白が証明できなければ4年の出場停止処分を受けるところでした。20年東京五輪を目指した代表争いの過熱が前代未聞の愚行を招いたのかもしれませんがなんとも悲しい事件でした。

この「ナンシー・ケリガン襲撃事件」も、トーニャの夫の知人が先走って起こしたなんともおバカな事件だってことがわかります。失敗を他人のせいにするトーニャ、鬼母、暴力的な夫、自意識過剰の夫の友・・・・「朱に交われば赤くなる」というかこうした負の連鎖が引き起こしたやりきれない物語でしたが、役者がそれぞれの人物をテンネンのようなノリで演じていたのがせめてもの救いでした。

# by zoompac | 2018-05-17 06:08 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

映画「レディプレイヤー1」_スティルバーグ監督の遊び心が満載の楽しい映画!

遊び心満載の楽しい映画でした。2Dで観たのですが音響効果がすごくて臨場感がありました。3Dで観るべき映画だったf0090954_18205052.jpgかもしれません。

2045年という近未来世界を設定とした映画でしたが、むしろ懐かしさを感じさせる少し前の時代の映画という印象が残りました。

主人公は若き日のスティーブン・スティルバーグ監督であり、バーチャルの世界「オアシス」は、たぶん彼が若いころ夢中になった映画の世界という気がしました。

様々な他の映画作品のキャラやガジェット等が盛り込まれていました。

メカゴジラ、鉄人28号、機動戦士ガンダム、ウルトラマン、スパイダーマン、三船敏郎等々。

「シャイニング」の引用なども結構印象に残りました。

時は2045年、世界は人口過密、失業、貧困にあえいでいます。

世界中の人々は「オアシス」と呼ばれる仮想世界で、仮想の人格アバターとして過ごし、不幸な現実から逃避しているさまが描かれます。

そうした中、「OASIS(オアシス)」の開発によって巨万の富を築いた大富豪のジェームズ・ハリデー(マーク・ライランス)が死去し、オアシスの隠された3つの謎を解明した者に、莫大な遺産とオアシスの運営権を明け渡すというメッセージが発信されます。

世界中の人々が謎解きに躍起になり、主人公の17歳の孤独な青年ウェイドもそれに参加します。

そしてある時、謎めいた美女アルテミスと出会ったウェイドは、カーレースに勝利することで1つ目の謎を解き明かすことに成功しました。

ウェイドは一躍オアシスの有名人となりますが、それはハリデーの遺産を狙う巨大企業IOI社との過酷な戦いの始まりでもありました。

この作中のゲーム世界の謎解きプロセスの中にアメリカはもとより日本のアニメやゲームに由来するキャラクターやアイテムなどがすでに述べたようにテンコ盛りで登場しました。

スティルバーグ監督自信が何より楽しんで作り上げたであろうと思える作品である一方で、仮想世界の危険を示唆し現実世界もまんざら悪いことばかりではないというメッセージもしっかり届いた映画でした。

同監督作品でトム・ハンクスとメリル・ストリープ主演の「ペンタゴン・ペーパーズ」という渋い映画を観たばかりでしたので、スピルバーグ監督の青春がいっぱい詰まっているような若々しい映画作りに圧倒されました。


# by zoompac | 2018-05-16 05:51 | Comments(0)

映画「女は二度決断する」_難民・移民問題に対するドイツでの価値観の衝突の深刻さを垣間見せる作品でした!

f0090954_18202318.jpgこれもヒューマントラスト有楽町で観ました。

ダイアン・クルーガーの演じた激情が観客の心を揺さぶります。

ラストシーンが衝撃でした。映像も美しい余韻を残し印象に残りました。

2000年から2007年にドイツでは「国家社会主義地下組織」(NSU)と名乗るネオナチの極右グループが移民を狙った連続テロ爆破事件を題材とした映画です。

実際の事件でも、被害者が移民であることから警察の初動捜査が遅れ、犯人を野放しにしたことから被害が拡大したといったことがあったようです。

7年間にドイツの8カ所の都市でトルコ人などが10人殺害されました。映画でも出てきますが、800本の太い釘を詰めた手製の爆弾をトルコ人の多い商店街に仕掛けて22人に重軽傷を負わせた事件も実際にありました。

ネオナチによる連続テロとして第二次世界大戦後最悪の事件とされています。

ドイツでは未だにブロンドの白人が、移民と結婚することをタブー視する現実があることも映画から見て取れました。

ファティン・アキン監督もトルコ系ドイツ人で、移民の2世、3世の抱える葛藤を当事者の視線で描いていました。

トルコ移民の夫と子供をテロリストに殺されたヒロインが、偏見に基づく操作ミスと裁判により無罪となった犯人を追及していく物語でした。

捜査の進展、裁判における弁護士の努力で、一筋の希望もみえた裁判でしたが、不条理にも思える偏見に満ちた判決がヒロインを絶望の淵に貶めてしまいます。

復讐は憎悪を生み暴力を連鎖するからいけないことですが、映画というの虚構世界の中では許されることではないでしょうか?

警察も司法も偏見に満ちていて、怒りと悲しみを声なき叫びに押し込めるしかなかったテロの標的とされたドイツ移民の人々がこの映画を観て自分たちの癒えなかった悲しみとくすぶる復讐心を多少なりとも浄化することをできたのではないかと思わされました。

ドイツのハンブルグはトルコ系を中心に移民系の人が人口の34%を占めると聞いています。

# by zoompac | 2018-05-15 05:48 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)

映画「ラブレス」_夫婦喧嘩に対する息子の徹底的した沈黙の抗議!

久しぶりのヒューマントラスト有楽町で観ました。f0090954_18195995.jpg

寒々としたロシアの大地や水辺が映し出され、静寂の中に立ち枯れた木々がクローズアップされます。

続いてコンクリートの小学校の建物にカメラが向き、放課後になって下校する少年にフォーカスされます。

彼(アレクセイ)はしばらく森をうろついて自宅のマンションに戻りますが、そこは彼にとって安らぎの場所ではありませんでした。

アレクセイの両親は離婚協議中でそこでは壮絶な夫婦喧嘩が繰り広げられています。

一流企業で働く夫と美容院を経営する妻にはすでにそれぞれ別々のパートナーがおり、新たな生活のため一刻も早く互いの縁を切りたいと考えていました。

「家」も売却する予定になっていて、下見に他人が家にやってきます。

アレクセイにとっては心穏やかに過ごせる家庭ではなかったのです。

父権が確立されたロシア家族を予想していたのですが、さにあらずでした。夫は防戦一方で、少しでも言い返そうものなら、妻から倍返しの罵り言葉が休む間もなく連続掃射されてしまいます。

離婚後の12歳の息子の世話についてはお互いが責任の押し付け合いの夫婦喧嘩です。

居丈高な妻の悪態はエスカレートして、アレクセイが密かに聞いていることに気づきませんでした。妻はアレクセイが二人の愛の結晶として望まれて生まれた子ではないことを主張します。

アレクセイは怒りや抗議の声をあげるでもなくひたすら声を押し殺して涙を流すだけです。観客として私も胸が押しつぶされそうなシーンでした。 夫婦喧嘩の饒舌さと怒りや悲しみを包括したアレクセイの重く沈み込んだ沈黙の対比が印象に残りました。

その翌朝、学校へ行ったはずのアレクセイは忽然と姿を消してしまいます。

あれだけ饒舌で騒がしかった夫婦は寡黙になり、ボランティアの協力を得て必死にその行方を捜します。

捜索隊のアレックスを大声で呼ぶ「アリョーシャ!」という声が、森の静寂をかえって際立てていました。

映画の冒頭でアレックスが下校の途中で拾ったリボンテープが森の木に残されている映像がアレックスの不在を静かながらも強烈に物語っていました。

# by zoompac | 2018-05-14 05:46 | 読書・映画・音楽 | Comments(0)
RELEASE INFORMATION NEW ALBUM

[通常盤]「Now On Sale!!」
TOCP-66380/¥2,548(税込)

[DVD付 初回生産限定盤]
「Now On Sale!!」
TOCP-66381/¥3,500(税込)

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