午前十時の映画祭8@TOHOシネマズ日本橋で観ました。 8日金曜日まで同劇場で観ることができます。
オードリー・ヘップバーンと言えば、都会で光り輝く作品が多いですね。ローマの「ローマの休日」、ニューヨークの「ティファニーで朝食を」そしてロンドンの「マイ・フェア・レディ」等がそうです。
そういう観点からすれば、パリはこの「おしゃれ泥棒」でしょう。
と、私は思っているのですが、実は、パリを舞台にした、オードリーの映画作品は調べたところたくさんありました。「昼下がりの情事(’57)」、「パリの恋人(’57)」、「シャレード(’64)」、パリで一緒に(’64)」等です。
「おしゃれ泥棒で」の冒頭から目を引くのは、乗馬帽のような白の帽子に白のサングラスに白ずくめの衣装です。白ずくめの魅力的な彼女が乗りこなすのは真っ赤なミニ車です。イタリア製のアウトビアンキですね。(写真)
映画「グラン・ブルー」でジャン・レノ扮するエンゾがボロボロの泥だらけのこの車アウトビアンキを乗り回していましたが、乗る人が違うとここまで雰囲気が違うのですね。 オードリーが乗るともうそれだけでファッションです。
ちなみに、ピーター・オトゥール扮するシモン・デルモットが乗り回していたクリーム色の車は、ジャガーE Typeです。シモンが手に怪我をしたため、オードリー扮するニコルが運転することになったのですが、この車が乱暴なニコルの運転に反応しじゃじゃ馬ぶりの走行を繰り返していました。主人の乱暴な運転ぶりに素直に反応した野生の馬ってイメージのジャガーETypeでしたが、敏感な反応は他に理由があったのかもしれません。 運転するニコルはこのときネグリジェ姿でした。
この映画でも彼女の衣装はジヴァンシィが手がけていましたが、ファッションと言えば、映画の半ばあたりで出てくる昼下がりのホテル”リッツ”のバーだと思うのですが、シモンと待合せをしていたときのニコルの衣装もなかなか印象的でした。
実は、この時彼女はよからぬ相談をシモンに持ち掛けようとしていたのです。その後ろめたい気持ちを隠すかのように彼女はせいぜい地味な格好をして目立たないことを心掛けたつもりだったのでしょう。顔と腕を黒のヴェールで覆い全身黒を基調としたドレス姿に片方だけ白い手袋といういでたちだったのです。本人の意識とは逆に羨望の眼差しの集中砲火を浴びるほどの際立った美しさでした。大人の色香を解き放っての黒ずくめファッションもなかなか印象的でした。
このときのピーターの表情のおかしさったらありません。彼女との待ち合わせだから、当然探します。すまし顔のニコルの顔を2度見ても気づかないのです。3度目にそれとわかったときのピーターの驚愕の表情にこちら(観客の1人)まで心臓がバクバクしてしまいました。彼はこのときニコルとの恋の深淵に真っ逆さまに墜ちていったに違いありません。
1966年のこの映画の12年前に、オードリーを「ローマの休日」で世界的なスターにしたウィリアム・ワイラー監督が、またオードリーの妖精のような魅力に大人の色香(脚線美を強調する場面も多くありました)を上手くブレンドしたコメディ+ロマン+サスペンス映画を世に出してくれました。37歳のオードリーが輝いていました。
ピーター・オトゥールは、「アラビアのロレンス」の影響が大きすぎてシリアスな印象が強いのですが、この映画では軽妙な演技でGood Looking Man(美男)ぶりを披露しています。オードリーとピーターの息もぴったり合っていました。
ヴィーナス像を見事盗み出した後に「私、泥棒したの初めてよ」と言ったオードリーに対して、「僕もだよ」というピーターのおとぼけ表情が最高でしたね。 破顔一笑でした。