来年のNHK大河ドラマ「せご(西郷)どん」を見据えて、司馬遼太郎の「翔ぶが如く」を三度目ですが読み返しています。
この巻では後に日本の警察機構の創始者となる川路利良(としなが)が、パリに留学し、フランス警察のあり様を学ぶところから始まります。
パリへ向かう列車で、おなかが痛くなって苦しむエピソードは本当におかしいですね。
この小説の主人公は、大将然とした大山巌や西郷従道でさえ、「兄の隆盛にくらべると月の前の星だった」といわれる器が桁外れに大きい西郷隆盛と、実利的で私心がない「冷厳なること北海の氷山の如し」と言われる大久保利通なのです。この二人の前では皆小僧扱いになってしまいますが、維新後の日本の構築にいそしむ綺羅星のごとき人物達(大久保派)やこんな国にするために戦ってきたのではないという不満層の人物達(西郷派)、その他の有名人物をを点描のように細かく丁寧に描きながら大きな絵図柄をみせてくれる小説だったと記憶しています。
全国300万と言われる士族たちがその既得権を明治政権によって奪われた後の時代です。 薩長土三藩の士族から成っている官軍の名残の近衛軍がやっかいな存在になりつつありました。廃藩置県という一大変革を断行するにあたって各地の内乱を予想し東京に近衛兵を集めましたが、廃藩置県がうまくいってしまい無用の存在になっていたのです。
西郷隆盛は彼らのエネルギー放散のため征韓論を強く求めましたが、日本の内政確立を優先する大久保利通や他の参議の承認を取れず流れてしまいます。
結局、西郷が鹿児島に下野し、不満分子をその地に集め、自爆させたような印象を以前読了した時持ちました。天皇好きの西郷が、反政府不満分子の親玉という汚名を被ってまで国のために尽くしたという印象でした。
司馬遼太郎氏は、スケッチが大好きで自ら視覚型人間と任じているようです。去年NHK大河の「真田丸」に合わせて、司馬氏の大阪冬の陣、夏の陣を描いた「城塞」という小説を読んだのですが、その中で、大阪城を上町台地というナマコ状の端に乗っかった城であると表現されていたのが強く印象に残りました。字面を通して、頭の中に視覚として大阪城のあり様が浮かんでくるかのような感じでした。
この「翔ぶが如く 1巻」でも、同じような読者の視覚に訴えかける表現がありましたよ。樺太のことを「北海道の北につらなるこの塩鮭のような形をした島」と表現していました。読者の視覚を刺激するわかりやすい表現ですね。
2巻か3巻に、北海の氷山と恐れられた大久保利通が、日本漁船を襲った台湾の部族が起こした事件の補償を中国の高官にねじ込む外交折衝のシーンが出てくるはずです。このとき、交渉に倦んだ中国から、台湾は中国の領土ではないという正式コメントを引き出し、台湾を日本の領土にするという離れ業を大久保はやったのです。もう一度、そのエピソードを読む楽しみにわくわくしております。