「うたかたの恋」(原題: Mayerling )は、1936年のフランスの恋愛映画です。
1889年に起きたオーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフ(シャルル・ボワイエ)と男爵令嬢マリー・ヴェッツェラ(ダニエル・ダリュー)の心中事件(マイヤーリング事件)を題材にしたフランスの作家クロード・アネの1930年の小説『うたかたの恋』を原作としています。
大流行した同時代の映画「会議は踊る」と違い、この「うたかたの恋」は、戦前の日本では皇室のスキャンダルを扱った恐れ多い作品とされ検閲により上映禁止になってしまいました。日本で公開されたのは戦後1946年になってからでした。
情死したこと有名な皇太子ルドルフですが、当時の欧州情勢の分析や外交能力は優れていたようです。彼はジャーナリズム関係の友達が多く欧州全域にわたって広い情報網をもっていました。反ドイツ主義の先鋒でトラと呼ばれたフランスのクレマンソーとも親交がありました。
映画では、因習と頑迷のみが支配する宮廷生活に背を向け社会主義運動に没頭する反体制的(反抗的な?)なルドルフが描かれ、その一方で、「戦争は他家に任せておけ。幸いなオーストリアよ、汝は結婚せよ」というハプスブルク家の家訓に従ってベルギー皇女を妃として迎えることに同意するルドルフの複雑な性格の二面性を対峙させていました。
そうした葛藤が、男爵令嬢マリー・ヴェッツェラとの出会いでバランスを失い、父親フランツ・ヨーゼフ皇帝に対する反目がますます強まり、やがて純粋な愛に生きがいを見出し、その純粋さを求めて死に急ぐ道を邁進することになってしまいます。
塚本哲也の「エリザベート ハプスブルク家最後の皇女」に登場する”エリザベート”のお父さんが皇太子ルドルフです。 ちなみにそのエリザベートのお母さんがルドルフが両親から勧められるるままに娶ったベルギー皇女(ステファニー妃)でした。
宝塚歌劇団の「エリザベート~愛と死の輪舞(ロンド)」で有名なシシィの愛称で知られるエリザベートは、皇帝フランツ・ヨーゼフの妃です。すなわち彼女はルドルフの母であり、塚本哲也がハプスブルク家最後の皇女と呼ぶエリザベートの祖母にあたります。
この「うたかたの恋」も宝塚歌劇団によって上演されているミュージカル作品の一つで、初演は1983年で、その後、幾度か再演を繰り返されていますが、人気は圧倒的に「エリザベート~愛と死の輪舞(ロンド)」の方が上です。
「エリザベート~愛と死の輪舞(ロンド)」は1996年に初演、その後チケットが取れないほどの人気を博し、2016年には上演900回を達成しています。この大人気の演目で、女性を中心に「ハプスブルク帝国ブーム」がおき、その華麗な宮廷生活への憧れなどからオーストリア・ウィーンへの観光客増加を引き起こしたことも有名です。
「うたかたの恋」の映画は、1957年にはオードリー・ヘップバーン(ルドルフの愛人男爵令嬢マリー・フォン・ヴェッツェラ役)とメル・ファーラー(ルドルフ役)の共演でアメリカ映画「マイヤーリング」としてリメイクされ、その後、1968年にイギリス・フランス合作のリメイク版映画「うたかたの恋」も、ルドルフ役にオマー・シャリフ、マリー役にカトリーヌ・ドヌーヴで上演されています。
塚本哲也の「エリザベート ハプスブルク家最後の皇女」には、映画ではなかなか伝わらないルドルフの先見性の高さと国際性が描かれていました。そうした背景知識があったからこそみれた映画で、そうした知識抜きでは物足りなさを感じたかもしれません。