WOWOWドラマで全4話が放映中(毎週土曜日夜10時)ですが、ドラマの脚本と原作の筋立てには微妙な違いがあります。私には原作のほうが断然面白いですね。文章のほうが言葉の含蓄を吟味できます。ドラマのほうが演説と聴衆の反応を表しやすいという利点もありますが・・・。
まだ日本では珍しい仕事である「スピーチライター」にスポットライトを当てた小説です。
あまりぱっとしない27歳のOL二宮こと葉が主人公で、結婚式で伝説のスピーチライター久遠久美のスピーチを聞いたことがきっかけで、押しかけて彼女の弟子にしてもらい、この馴染みのない仕事に就くことになるというお仕事小説です。こと葉の成長物語でもありました。
一家で鎌倉住まいの「こと葉」はさして文才はないのですが、彼女のおばあちゃんが有名な俳人で、彼女の名づけ親でもありました。 孫の誕生に、「古都の葉の赤くなりしや姫生まる」と詠んだのです。 この古都はもちろん鎌倉のことです。
久遠久美のスピーチは、いきなり、「あれは、2カ月ほど前のことだったでしょうか。 ある夜、厚志君(新郎)が「相談がある」と言って、私に電話してきました。」から始まります。
「実は、好きな人ができた。 -中略-。 結婚しちゃえばいいって。 それって早すぎますか?」
私はすかさず答えました。
「それのどこが相談なの? もう決めているじゃない。」
-中略-
「フランスの作家、ジョルジェ・サンドは言いました。あのショパンを生涯、苦しみながらも愛し続けた彼女の言葉です。」
「愛せよ。人生において、よきものはそれだけである。」
「本日は、お日柄もよく、心温かな人々に見守られ、ふたつの人生をひとつに重ねて、いまからふたりで歩んでいってください。 たったひとつのよきもののために」
この結婚式のスピーチの締めの言葉がこの小説の題名です。
言葉の力に関するエピソードも満載です。
ホワイトハウスの経験者で夫が大統領時代も数々の助言をしていたヒラリー・クリントンがオバマに大統領予備選で負けたのもオバマの聴衆の心を掴む言葉の力だと言っています。
そういう意味では、ヒラリー・クリントンはまたしても言葉の力で去年の大統領選でも負けてしまいましたね。トランプの歯に衣着せぬやや下品ではあるけどホンネの言葉の力に。
この小説で、もう1つ心の琴線に触れた言葉がありました。
「困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。 3時間後の君、涙がとまっている。 24時間後の君、涙は乾いている。 2日後の君、顔を上げている。 3日後の君、歩き出している。」
この言葉が、学生時代に両親を事故で失った久遠久美をいかに支えたのか、また「こと葉」が、幼馴染の二世議員の立候補者(厚志)の妻に起こった不幸をスピーチ原稿に盛り込み由比ガ浜公会堂での彼の決起集会でいかなる奇跡を起こすのか、そうしたこの小説の起点ともいえる重要な役割を担っています。 言葉が、言葉こそが、人を奮い立たすということが実感できます。
是非、伝説のスピーチ-ライターの久遠久美の結婚式のスピーチと共に、「こと葉」と新人政治家が演説で奇跡を起こす、そんな言葉の魔術の物語をご堪能ください。 お勧めです。 ちなみにドラマは来週土曜日で4話完結です。 久遠久美に長谷川京子、こと葉に比嘉愛未です。