銀座プランタン横の丸の内TOEIで観ました。
「焼肉定食」「焼うどん」「豚汁定食」をテーマに3つの物語が綴られていました。
私には、第2話目の「焼うどん」がよかったです。 キムラ緑子の表情と役柄が痛く気に入りました。
彼女は蕎麦屋の未亡人という設定なのですが、成人した一人息子(池松壮亮)の出来が悪く、彼に出前配達以外の手伝いをまかせられません。ただ、息子可愛さはまんざらでもなく、典型的な子離れできない母親なのです。
息子は息子で蕎麦よりうどんが好きで、小林薫が店主で切り盛りしている深夜食堂の「焼うどん」が好物です。 そして、その「深夜食堂は」、キムラ緑子が扮する未亡人が、夫の生前から今もなおよく飲みに来ている馴染みの店だったのです。
そんなある日、蕎麦の出前がきっかけで、息子はある会社の女性事務員(小島聖)と仲良くなります。 やがて結婚したいと母親に言うのですが、その事務員の歳が彼より15歳上だったのです。 キムラ緑子が、息子に、「あんたが35歳になったら、相手は50歳よ!」なんて現実を刃物のように振りかざして、断固として反対するのです。 そして家に彼女を連れて挨拶させたいという息子に、彼女は絶対会わないと突っぱねたのです。
ところが、その「さおり」と名乗る女性は、実は、深夜食堂で、キムラ緑子役の母親と出会っていたのです。 ここからはネタばれになってしまいますので、ごめんなさいこれ以上語れません。 映画館で観てください。 キムラ緑子の表情の七変化、表現力の巧みさを堪能できます。
今は修羅場でも、案外幸せな将来を予感させる余韻のある物語になっていました。
第3話の「豚汁定食」は原作漫画にない、映画のライターのオリジナルだそうです。
母親が子を捨てて、男と駆け落ちするって話は昔からよくある話です。 そんな母親が時がたってその息子に会いたくなっても、息子は会ってくれません。渡辺美佐子がそんな母親の役を好演していました。ちょっとヒネリが効きすぎている感じがしましたが、前作「深夜食堂」の無銭飲食娘の多部未華子が、余貴美子の料亭でしっかりした働き者になって、東京に出てきて頼る人がいない渡辺美佐子役のおばあさんの面倒をみるのです。
ある人から恩を受けて、その人に恩返しができないとき、その恩を返す相手はその人本人でなくてもいい、それを劇中では「おすそわけ」というという意味合いのことを多部未華子がお礼のお金を渡そうとしたおばあさんに語っているのが印象に残りました。
この物語で、最近、知り合いが逆のケースだったことを思い出しました。 彼女は叔父叔母に育てられたのですが、行方知れずの母親の消息が50年経ってつかめたのです。彼女も子育てがすっかり終わってしまい孫まで誕生しているということもあって、昔のことは水に流して、その母親に会おうと決心し連絡したのですが、母親のほうが会うことを拒んだっていうことでした。人生、いろいろあるもんですね。
映画で映し出される、「焼肉定食」「焼うどん」「豚汁定食」の料理そのものはいたってシンプルなのですが、さすがにフード・スタイリストの飯島奈美さん監修のお仕事とあって、匂い立つような美味しそうな料理が画面いっぱいに広がっていました。彼女のお仕事は、「かもめ食堂」以来、私の心をとらえて離しません。
この作品の舞台は、新宿・花園界隈の路地裏にあると設定されたマスター1人で切り盛りする小さな飯屋で、深夜0時から朝の7時頃までの深夜にしか営業しないことから、のれんには単に「めしや」と書かれているにもかかわらず常連客から「深夜食堂」と呼ばれているということです。こんな深夜食堂が近所にあればいいですね。