斜に構えて、観察眼と分析力はあるのですが、自己抑制も強くて行動力がない。では防衛本能が強いのかというと、自分の気に入った美人に対してはやたら脇が甘い主人公といったら、東野圭吾の作品の中でもやや異色かつマイナーだけれど私の好きな作品「夜明けの街で」を思い出します。
この「危険なビーナス」に登場する主人公「伯郎(はくろう)」も、状況判断力に秀でているはずの主人公なのですが、失踪した弟の嫁「楓(かえで)」に会って、「お義兄様~」って呼ばれて女性のペースでいいように引っ張りまわされるのです。
そのうろたえている姿は笑えますね。「ばかだね~!」って。 まあ、他山の石としましょう。
読者としてもついつい感情移入してしまい、読み進むにつれいつのまにやら体に力が入ってしまっていて気が付くたびに苦笑ものでした。
しかし、楓(かえで)って何者???・・・って引っ張って引っ張って、最後はドタバタまとめてしゃんしゃんって感じでした。 いかにも竜頭蛇尾ってところでしょうか。
落語でもよくありますよね、噺が膨らんで途中までは惹きつけられるのに、オチというかサゲで、ちょっと残念な締めになってしまう噺が。
ちょうどそんな感じでした。
この動物病院の独身40代先生、助手のしっかり者の蔭山元美と謎の美女「楓」に挟まれて結局二兎を追うものはって感じの中途半端さでの幕引きも飲み込めないですねぇ。もう少し落しどころの決まったラストをお願いしますよ、やたら直木賞候補の作品には細かいコメントをされる東野センセ!
「ナミヤ雑貨店の奇蹟」以来、なかなか期待値以上の東野圭吾の新刊本に出会えていないのがちょっと淋しいです。 といって、ついつい気になって買ってしまう自分の習性も哀しいですね。