「ニュー・シネマ・パラダイス」「鑑定士と顔のない依頼人」で知られるイタリアの名匠ジュゼッペ・トルナトーレが、名優ジェレミー・アイアンズとオルガ・キュリレンコを主演に迎えて描くヒューマンミステリーです。
厳密にはミステリーと呼ぶには抵抗のある人もいるかもしれませんが、えっと思わせる仕掛けがあって、死んだはずの老天文学者の指示に従ってロンドンからスコットランドやイタリア北部の湖水地方を行ったり来たりします。
ジェレミー・アイアンズは、2013年の「リスボンに誘われて」以来ですね。その前も、私にはTVドラマ「ボルジア家 愛と欲望の教皇一族」ですっかりお馴染みの俳優さんでした。
オルガ・キュリレンコの名前が覚えにくい人に私の記憶法を伝授します。オルガンの上にきゅうりとレンコンが乗っている絵をイメージして、「オルガンの上にきゅうりとレンコン」と3回唱えれば覚えられます。2008年の「007慰めの報酬」のボンド・ガールです。その時の活躍を彷彿させるアクションもこの映画で出てきます。どういう状況下はあえて言いません(彼女、バイトでスタントマンをやっているのです。あっ、言っちゃったよ~( ;∀;))。 露出もボンドガール役だったときよりこちらの映画の方がムフフです。
音楽はトルナトーレ監督作おなじみのエンニオ・モリコーネが担当です。
ジュゼッペ・トルナトーレ(ジェノバの田舎っぺ、通るなら通~れ)監督は、「鑑定士と顔のない依頼人」同様、趣向を凝らした作品を再び世に出してくれました。私は、何故か、彼の初期作品の「ニューシネマ・パラダイス」のシンプルさが好きですけどね。時の流れの無常観と喪失感という意味では、この「ある天文学者の恋文」と「ニューシネマ・パラダイス」には共通点はあったかもしれません。そう意味でいえば、「鑑定士と顔のない依頼人」もそうでした。
ちなみに、WOWOWで「ニュー・シネマ・パラダイス」が10月17日(月)夜9時に放映予定です。
著名な天文学者のエド(ジェレミー・アイアンズ→ジェノヴァのイヤミー、あ~イヤ~ンズ)と教え子のエイミー(オルガンのきゅうりとレンコン)は、周囲には秘密で年の差の恋愛を満喫していました。
ある日、大学で授業を受けていたエイミーのもとに、出張中のエドから「もうすぐ会える」というメールが届くのですが、エドの代わりに教壇に立っていた別の教授から、エドが数日前に亡くなったという訃報を知らされます。
ところが、その後もエイミーのもとにはエドから手紙やメール、贈り物が届き、疑問を抱いたエイミーはエドの暮らしていたスコットランドのエジンバラの街を訪れ、さらにイタリアのスイスの国境に近いコモ湖等で有名な湖水地方の幻想的なサン・ジェリオ島にあるエドの別荘を訪ねます。
そこでエイミーは、彼女自身が誰にも言えずに封印していた過去について、エドが調べていたという事実を知るのですが・・・。
物語がエイミー目線で展開していき、観客も死んだはずのエドから送られてくるメール、手紙、花束、プレゼントに驚かされます。 優しいパパからサプライズプレゼントをもらう心境を主人公と共有するのです。
死ぬ前に、これほど夢中になれることにエネルギーを費やせたエドがうらやましいです。(envyです。エドの娘がエイミーに対して使っていました。二人が初めて会った時は、娘がエイミーを恨んで憎しみがあったので be jealous ofだったのが、やがてbe envious ofに変わったんだなと思いました)
死に行くエドは、ただエイミーに手紙やプレゼントで驚かすだけではありません。彼女の心にトラウマとなって残っている過去のいまわしい出来事から彼女を解き放とうと試みるのです。 その彼女の過去の出来事に彼女が宇宙に関する研究の傍ら、刹那的な死と隣り合わせのスタントにのめり込んでいた秘密があったのです。 (あっ、また言っちゃったよ~!)
なんでなんで? というささいな疑問が、薄皮1枚1枚はぎとられて、霧が晴れていくような、そして最後に時空を超えた大きな愛を観客は目撃します。
「あの星はもう存在しないが、光は君に届いている」なんて、何光年もの雄大な宇宙の時空に比べたら、教授と教え子の歳の差なんて、それどころかあの世に逝ったエドとこの世にまだとどまり続けるエイミーとの時空の壁も超越ですよね。
ちょっとエドの仕掛けがしつこかったけど、素敵な「愛と記憶」の物語でした。
この映画のタイトルは、「Correspondence」でした。 単に「Love letter」としないところがいいですね。 天文学者にふさわしい宇宙のかなたからの通信という感じにも、あの世とこの世を結ぶ通信というふうにも捉えられます。
私が某外資系銀行に新入社員として配属された部署が貿易関係でした。 コルレス契約という外国為替取引の際に相手の国にある為替銀行と業務上結ぶ必要のある取決めを結んでいましたが、その相手先の銀行をコルレス先と言っていました。 要は、取引先銀行のことですね。 ちなみにこのコルレスは同じ名詞ながら、「Correspondence」ではなく「Correspondent」のほうです。