今年から、商会(商業簿記・会計学)におけるこれまでの日商簿記1級の試験範囲(連結会計等)が大幅に2級に払い下げになりました。これまで2級で出題されて今回の試験範囲の改正で1級の試験範囲に格上げされたものは少ないのですが、あります。特殊商品売買がそうです。これまでも、2級では簡単な問題が出題され、1級では複雑な応用問題が出題されていたので、1級の出題範囲が増えたというより、2級が他の出題範囲が増えることを配慮し、特殊販売を2級の範囲から削ったといった方が正確かもしれません。
特殊販売の中で、これまで圧倒的な出題率を誇るのが割賦販売です。昔の言い方では「月賦」です。商品を引き渡した際、売上に計上はするのですが、代金回収まで1年とか2年、あるいはもっとかかってしまいますので、売上利益の認識と計上を代金回収のタイミングに合わせる修正を決算整理として「繰延割賦売上利益」というBS勘定を使って行います。
この割賦販売の問題を解くにあたって一番大きなポイントは、回収基準なり、回収期限到来基準なり、その基準に応じて、前期未回収で今期回収できた売掛金と今期未回収だった売掛金の未実現利益を整理するということです。
要するに、割賦販売は通常の売掛金より売掛金回収リスクが高いので、販売時に即座に売上利益を認識・実現するのではなく、割賦売掛金に含まれる利益を回収基準や回収期限到来基準に応じて認識・実現できるよう、貸方にプールします。決算整理仕訳で、そのプール勘定の期首残高に対応する売掛金のうち当期に回収できた前期分売掛金に含まれる利益は戻入し(「繰延売上利益」は負債勘定なので戻入額は「繰延売上利益」勘定残高から引くことになります)、当期新たに発生した売掛金の未回収分から未実現利益を控除し、「繰延売上利益」勘定に追加します。
仕訳は、前者が、繰延(割賦)売上利益(BS) XX / 繰延(割賦)売上利益戻入(PL) XX、後者が、繰延売上利益控除(PL) XX / 繰延売上利益(BS) XXとなります。
未実現利益のプールに使われる勘定科目が、BSの負債の項目に分類されている「繰越売上利益」です。
本来は負債項目ではなく、純資産項目へ、その他有価証券の評価価額と同じ場所へ記載されるべき勘定科目だと思うのですがそれは置いておきましょう。この割賦販売でしかお目にかかれない特殊な勘定科目です。
この勘定の性格・役割を鵜呑みにすると、回収期限到来基準の問題が出題され割賦売掛金の期首分に前期に期限到来(すなわちすでに未実現利益戻入済)分が含まれていたり、その一部と期首分の期限未到来の一部が回収不能になったときの未実現利益取崩しの仕訳を切るときに混乱をきたしてしまいます。
出題者がこの割賦販売の問題の難易度をあげようとすると、回収期限到来基準に売掛金の回収不能を絡める問題となるのです。
回収不能分が出たとき注意しなければならない問題が2つあります。
1つは、前TBの未実現利益のプール残である「繰延売上利益」に対応した売掛金部分が、回収不能になったのかどうかが大きなポイントになるということです。
そういう意味で、当期の売掛金部分が回収不能と認識された場合、当期割賦売上に対応する売掛金は未実現利益を控除される前ですから、「繰越売上利益」からの取り崩しの仕訳は不要です。単純に 戻り商品評価額+戻り商品損失 / (回収不能)割賦売掛金という仕訳になります。(割賦販売は商品が担保になっていますので、回収不能時には大体この戻り商品勘定が登場します。
問題は、前期からの未回収割賦売掛金です。期首の割賦売掛金残高ですね。
もし、その回収不能分が、前期(期首)発生の売掛金のうち、未回収だけど前期に期限到来した分であれば、すでに未実現利益は「繰延売上利益」のプールから外されて前期に利益認識されていますので、当期の割賦売上の回収不能のケースと同様で、戻り商品評価額+戻り商品損失 / (回収不能)割賦売掛金という仕訳だけにします。
この回収不能が、前期(=期首)に未回収で期限未到来の割賦売掛金分であれば、前期に利益分を抜かれて「繰越売上利益」にプールされた売掛金に対応している売掛金ですから、回収不能と認識した場合は、その回収不能割賦売掛金額に前期の利益率を掛け、「繰越売上利益」にプールした未実現利益を取崩す仕訳が必要となります。ですから、借方に、繰越売上利益(回収不能割賦売掛金X前期利益率)+ 戻り商品 +戻り商品損失が、貸方に(回収不能)割賦売掛金という仕訳が必要になってきます。
大体、期首割賦売上売掛金からの回収不能分がドカンと示され、それが前期未回収分の期限到来分と期限未到来分に分かれることが多いので整理してこの売掛金取崩し仕訳をする必要があります。
さらに、これが2番目のポイントですが、この戻り商品に関しては、再販不能か再販可能かによってさらなる決算整理仕訳が必要になってきます。一番簡単なのが、再販不能です。仕訳で借方に登場した「戻り商品」という勘定科目を、後TBの左のBS項目に付足して、合計額を「戻り商品」という勘定科目に表示してお終いです。ややこしいのは再販可能の場合です。この場合、「戻り商品」という勘定科目から「仕入」勘定に戻入るため、仕入 XX / 戻り商品 XX という仕訳が追加されます。
さらにその戻り商品が、当期に売れるか売れないか(期末商品に残るか)によって、三分法の仕入/期首繰越商品、期末繰越商品/仕入(俗に言う、シークリ/クリシーの後の決算整理仕訳の中に戻り商品の調整が必要になるのです。売れていれば無視しますが、売れ残っている場合は、期末繰越商品に入れるため、期末繰越商品XX / 仕入 XX の仕訳が必要になってきます。
4戻り商品が売れた方が楽に思えるかもしれませんが、その場合、仕入が増えて、繰越商品が変わらないわけですから、売上原価が戻り商品分増え、したがって当期の割賦売上利益率が変更され、決算整理の繰延売上利益控除額や決算整理後の繰延売上利益残高に影響するのです。
143回答練2の総合問題にある割賦販売の問題は、この前期回収不能分を前期未回収期限到来と前期未回収期限未到来にまたいだ設定にし、その戻り商品に関する仕訳は前TBでは未勝利とし、さらに再販可能で当期に売れたというこの割賦販売で最も難易度の高いものにしていました。マニアックで趣味の悪い出題としかいいようがないですね。
また、TR4-8の問題に回収不能が、期首割賦売掛金残高の前期回収期限到来分と未到来分、さらに当期割賦販売残高にも発生した場合の仕訳整理をさせる問題が出ていました。前期の回収不能分には貸倒引当金が適用され、戻り商品損失の部分が貸倒引当金になっていました。この「繰越売上利益」も性格、目的は違うのですが、回収不能に対応する場合は、貸倒引当金の取り崩しと同じような仕訳をするんだとぼんやり思いました。こういった意図での問題出題があるんだということをわかっていないと、最初に問題を読んだときは、問題の出題者の言わんとする意図が理解できずお手上げです。出題者の意図がわかって問題文を読むとなるほどこういうややこしい言い方しかできないなってことは容易に理解できます。
解法のポイントは、
1.原価BOXから、割賦売上の利益率を求める(回収不能があって、戻り商品があるときには、利益率への影響を考慮)
通常、一般売上のX%増しで、割賦販売を行っていると問題に与えられるので、割賦販売/1+X/100で割賦販売で一般売上金額に修正して一般売上原価率を求める
次に、(1+X/100-原価率)/1+X/100で割賦販売利益率を求める
2.前期の割賦販売利益率は、通常前TBの貸方にある「繰延売上利益」額を問題文で与えられる割賦売掛金期首残高で割って求める
前期と今期で利益率が異なることも往々にしてある。
3.割賦売掛金勘定BOXの借方合計は、割賦売掛金期首残高+当期割賦売掛金高(= 当期割賦売上高)となり、その合計額から、前TBの割賦売掛金残高(=期首分と当期分の未回収高、ただし回収不能高があればそれも含まれる、だから逆に期首と当期の売掛金残高から回収額を除いた残高であると解釈した方が安全)を引いた差額が回収高となる。
4.未実現利益の整理だが、期首分の回収売掛金に前期の利益率を掛け、前期に未実現利益として「繰延売上利益」にプールした金額を、そのBSプール額から引き、今期の利益に戻し入れる修正をする。
繰延売上利益(BS) XXX / 繰延売上利益戻入(PL) XXX (XXXは期首分の回収金額 X 前期の割賦売上利益率)
5.次に当期の未回収金額に当期の割賦売上利益率を掛けて、当期の未実現利益として「繰延売上利益」へプールする金額を求める
繰延売上利益控除(PL)XXX / 繰延売上利益(BS) XXX
4.と5.の修正仕訳の結果、前TB(決算整理前残高試算表)の繰延売上利益(BS)の残高は、4の繰延売上利益戻入を減額、5の繰延売上利益控除を増額させ、後TB(決算整理後残高試算表)の繰延売上利益(BS)の新たな残高へ期末決算修正される。