TOHOシネマズ六本木ヒルズで観ました。
新聞記者たちがカトリック教会のスキャンダルを暴いた実話を、「扉をたたく人」のトム・マッカーシー監督が映画化し、第88回アカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した実録ドラマです。
新聞記者たちの活躍を描いた社会派映画では、ウォーターゲート事件の知られざる真相を暴き、ニクソン大統領を失脚に導いたワシントン・ポスト紙の記者カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードの回顧録を映画化した金字塔ともいうべき作品がありました。
映画では、マイアミから転属してきた新任の編集局長とマイケル・キートン演じる「スポットライト」チームのリーダーとの間にボストン・グローブ紙のベテランの部長でジョン・スラッテリー演じるベン・ブラッドリーJrという人物が登場していましたが、実在のブラッドリーJrのお父さんが「大統領の陰謀」(’76)で描かれたワシントン・ポスト紙編集長ベン・ブラッドリー(ジェイソン・ロバーズが演じでアカデミー助演男優賞を受賞しました)です。
トム・マッカシ―監督もこの「スポットライト 世紀のスクープ」を作るにあたって「大統領の陰謀」を意識したようです。
「大統領の陰謀」では、ダスティン・ホフマンとロバート・レッドフォードが一旗揚げたい野心剥き出しぎらぎらした取材ぶりですが、「スポットライト」のほうはドデカイネタを狙った一発屋といった取材ぶりではなく、正義に突き動かされながらタンタンとチームワークをこなしていきます。 これはこれで、演じる俳優たちのアンサンブルの妙が見事で、受賞はなりませんでしたが、4人のチームメンバーの中からマーク・ラファロがアカデミー助演男優賞、レイチェル・マクアダムスが助演女優賞にノミネートされていたのも頷けます。
記者たちの取材姿勢の違いはありますが、この二つの映画には大きな共通点もみえます。
「大統領の陰謀」の映画は、ニクソン大統領が敵対する民主党の事務所に盗聴器を仕掛けようとしたことをワシントン・ポスト紙のふたりの新聞記者が暴いて記事にするまでの物語でした。映画はニクソン大統領が再選されていたところで終わっていましたが。 その記事が引き金となって、ウォーターゲート事件という大スキャンダルに発展しニクソン大統領が辞任した事実は、映画の終わりに後日談として文字で語られるだけでした。
この手法は、この「スポットライト」でも使われていました。2002年1月6日にボストン・グローブ紙が130人の子供をレイプしたケーガン神父をカトリック教会が隠蔽してきたことを記事にしたところで映画は終わっていました。 でも、それは始まりだったのです。 記事をきっかけに被害者からの告発電話が鳴りやまず、ボストン教区のみならず、全米各地で過去60年にわたりカトリック教会の聖職者1200人が4000人の子供に性的虐待を加えていた事実が明るみに出た後日談は、エンドロール前のテロップに映し出されただけです。
こうした神父による児童に対する性的虐待事件に対する被害者の訴えは、アメリカからアイルランド、ドイツ、イギリス、オーストライあ、中南米へと拡がり、2006年にはローマ教皇ベネディクト16世も虐待の事実を認めました。 彼自身の隠蔽工作への関与も暴かれ、2013年には598年ぶりの生前退位教皇となりました。
現在のフランシス教皇もこの聖職者に幼児性愛者が多い現実を認め、教区内の隠蔽処理をせず、バチカンに報告するよう、世界の教区の大司教に通告しているそうです。
2000年続いたカトリック教会にとっては宗教改革と並ぶ歴史的な危機の中にあるという人もいますが、このカトリック教会という巨大な宗教組織の闇を暴いたのは、たった4人の新聞記者のチーム報道でした。
このチームメンバーを演じた俳優たちは、実在するそれぞれの記者に取材を申し込み役作りををしたそうですよ。
観客の誰しもタブーに切り込むジャーナリストの活躍に拍手喝采を送りたくなること間違いなしの映画です。