「水を飲む時、井戸を掘った人の苦労を忘れない」とは鄧小平が訪日の折、田中角栄に送った言葉だそうです。中国の重鎮にその人物をと業績を評価された日本人政治家は彼1人だけだったかもしれませんね。
彼の洞察力と実行力に米合衆国首脳が恐れをなしてロッキード事件を仕掛け田中角栄を潰してしまったという秘話が石原慎太郎の一人称の小説で明らかにされていました。
フィクションの小説手法だからこそ、真実に近い隠された事実を、また政治を経験した石原慎太郎だからこそここまで書ききれたのかもしれません。
田中角栄の金権政治を非難しながらも、石原慎太郎は、政敵としての田中角栄を、政治の現場から去った今、昔を振り返って、客観的に田中角栄の功績を再評価してくれました。田中角栄の日本列島改造路線の長期的なビジョンの確かさを再確認させてくれています。
政治と金の問題、女の問題等、今日の倫理観では許容し難い側面を持った男でしたが、先見性に富んだ「コンピューター付きブルドーザー」の遺した数々の業績の筋跡は、今なお、脈々と受け継がれた事業となっており、彼の政治家として将来を見通すヴィジョンの確かさを認めざるを得ないのです。 そういう意味では稀有の天才だったと言えるのだと思います。
石原慎太郎でなければ書きえない、田中角栄の生涯を彼の業績を田中角栄の語る一人称の独り言というスタイルの小説の形にして残してくれました。 コンパクトに過ぎる嫌いもありますが、メッセージは強く伝わりました。