昔、私の好きなNHKのBS読書番組に「週刊ブックレビュー」というのがありました。亡き児玉清さんが司会を務められたこともあり、彼の読書に対する並々ならぬ姿勢にいつも感心していました。
彼の遺作「すべては今日から」を読むと、彼の人生を大きく変えた一冊が紹介されていました。それがこの本です。
高校生の時、この本と出会って、ツヴァイクの本をドイツ語で読みたい一心で、学習院大学のドイツ文学科へ進み、その道が奇しくも俳優の道へと結びついたと言っています。
オーストリアはウィーン生まれのこのユダヤ系作家はこの本で何を児玉清青年に訴えたのでしょうか?
ツヴァイクは言います。 「神の神秘充ちている仕事場である「歴史」の中でも、取るにたらないことや平凡なことは無数にある。しかし、稀にではあるが、崇高な、忘れがたい決定的な瞬間がある。」
それを彼は「人類の星の時間」と呼んでいるのです。
児玉清は言います。「読み始めるや、たちまち面白さに熱中してしまった。何が人間の運命を分けるのか。 ツヴァイクが説く魔人的な摩訶不思議な力とは。運命の不思議さ。僕はあたかも天啓をうけたように彼の著作にのめりこんだ。」
著者ツバイクは、過去の様々な12人の天才たちが体験した、運命的な瞬間を捉え、運命と歴史、人類の時間への影響について書いてくれています。
①不滅の中への逃亡 太平洋の発見 1513年9月25日
②ピザンチンの都を奪い取る 1453年9月29日
③ゲオルグ・フリードリッヒ・ヘンデルの復活 1741年8月21日
④一晩だけの天才 ラ・マルセイエーズの作曲 1792年4月25日
⑤ウォーターローの世界的瞬間 1815年6月18日のナポレオン
⑥マリーエンバートの悲歌 カルルスバートからヴァイマルへの途中のゲーテ 1823年9月5日
⑦エルドラード(黄金郷)の発見 J・Aズーター、カリフォルニア 1848年1月
⑧壮烈な瞬間 ドストイエフスキー、ペテスブルグ、セメノフ広場 1849年12月22日
⑨大洋をわたった最初のことば サイラス・W・フィールド1858年7月28日
⑩神への逃走 1910年10月の末 レオ・トルストイの未完成戯曲「暗闇を照らす」へのエピローグ
⑪南極探検の闘い スコット大佐 90緯度 1912年1月16日
⑫封印列車 レーニン 1917年4月9日
個人的には、②のビザンティン帝国(東ローマ帝国)の首都であるコンスタンティノープルを陥落させたオスマントルコ皇帝マホメットの物語、⑤のウォーターローでの戦いでナポレオンがイギリスのウエリントン軍との一戦の勝機を失わせた、ナポレオン軍遊軍を率いていたグルーシー元帥の融通のなさ、⑨の大西洋間の通信を繋いだ海底ケーブルの設置プロジェクト等が面白かったです。
余談ですが、ツバイクは司馬遼太郎氏も愛読していたようです。 その影響もあって、ツバイクの名著「ジョゼフ・フーシェ」、「マゼラン」等を読みました。 「マリー・アントワネット」 「メアリー・スチュアート」は本棚で寝ています。
佐藤賢一氏の「小説フランス革命」は18巻の大作で、まだ6巻までしか読んでいませんが、読了した後は、もう一度ツバイクの「ジョセフ・フーシェ」を読んでみようと思います。