日比谷宝塚劇場の地下にあるTOHOシネマズみゆき座・スカラ座で観ました。
何だ!この異様な迫力は・・・!
音楽映画というより、スポ根に近い!音楽版の星一徹と星飛雄馬というか、こちらの師弟対決には妥協も迷いもありません。 容赦のない鬼教師と彼に罵倒されながらしごき抜かれるドラマー志願の若者の半端ない激情がぶつかり合います。 師弟関係が、SMからSSへと変化する様をまざまざと目撃することになります。
長編映画はこれが初めてという監督・脚本はディミアン・チャゼルです。 撮影当時は28歳で全くの無名であったそうです。 予算の制限もあったのか彼はこの作品をわずか19日で撮影しました。
それがアカデミー賞5部門にノミネートされなんとなんと、そのうち助演男優賞、録音賞、編集賞の3部門に輝く高打率でした。
登場人物はほとんどこの師弟二人に集約されますし、驚くほど会話が少ない映画なんですよ、何だか罵倒とドラムのリズムと震動だけでよくこれだけの熱い映画を創ってくれたもんだと感心しましたよ、私は。
ちょっと今までの映画にない、新しい切り口で、五感というか、人間の心の奥底に潜む、獣的な攻撃性と相手が強いとわかったときの防衛本能を刺激されました。
アカデミー賞助演男優賞に輝いた鬼教官フレッチャー役のJ・K・シモンズの迫力の演技は噂に違わず凄いです。 映画だとわかっていても鬼気迫る演技に震え上がってしまいます。
このおっさんの禿げ頭の側面に浮き上がって見えるのが、頭蓋骨の継ぎ目なのか血管なのかわかりませんが、それ一つをとっても「おおーっ!」と驚愕しました。
こんな独裁者そのもののおっさんにだけは指導されたくないですね。ビンタ、罵倒何でもアリで、しごかれる側の人権、プライドは屈辱の肥溜めにぶち込まれるって感じです。 教え子が躁鬱病にかかって自殺するという事件まで起きます。
鬼教官フレッチャーが切れまくって、吠えまくる度、ものを投げつける度、ドキーッ!とする私は、観客席からみているのではなく、いつのまにやら主人公アンドリューの同僚ミュージシャン視線になっています。いつフレッチャーの怒りの矛先がこちらに向かってくるかとドキドキです。 脚を震わせ、しっぽ巻いています。
主役のドラマーアンドリュー・ニーマンを演じるマイルズ・テラーも半端じゃないですよ。 前半は苛め抜かれて追い込まれますが、だんだん適応してしたたかさと根性をむき出しにしてきます。
こいつも正気の沙汰ではありません。交通事故を起こしても、這いつくばって会場に駆けつけドラムをたたこうとします。
マイルズ・テラーはロックでのドラムの経験者です。彼の鬼気迫るド迫力のドラム演技も彼のそうしたキャリアにささえられていたのですね。 凄かったです。
最期のクライマックスで、教官の鬼のような仕打ちに、あ~、ちょっとネタバレっぽいけど、へたれませんよ・・・! ジャム・セッションの指揮をとるのは鬼教官フレッチャーなのかそれともドラマーアンドリューか・・・・?
窮鼠猫を噛む状態にもつれ込み、観客の前で、観客に気づかれないようにぎりぎりの線で狂気と狂気の大バトルです。 アドレナリン出っ放しの107分の映画の、このクライマックスの10分のドラム・セッションはもう限界マックスの鳥肌もんです。 息をしていたのかどうかも覚えていない緊張でした。 観終わった瞬間からこの最後の10分は私にとってすでに伝説となりました。
まさに格闘技を観た後の興奮と虚脱感を体験できるこのユニークな音楽映画は、私の今年一番の映画となるでしょう。
私からのアドバイスを一言、「観る前はくれぐれも体調を整えてからにしてくださいね~!」