ジェームズ・L・ブルックス監督のアメリカ映画で、舞台はマンハッタン、主演は“ジャック・ニコルソン”と“ヘレン・ハント”です。
私の大好きな俳優たちで、1998年の第70回のアカデミー賞の主演男優賞、主演女優賞をダブルで獲た話題の作品でした。
ちなみに、その1998年は、主演男優賞・主演女優賞を除いては、ジェームス・キャメロン監督の『タイタニック』が、作品賞、監督賞を含む11部門の受賞に輝き、まさにアカデミー賞を総なめにした年でした。
タイタニックの舳に2人で立って両腕を広げたレオ様もケイト・ウィンスレットも、この「恋愛小説家」と「ウエイトレス」の大人の恋の演技の波にさらわれてしまったようです。
主人公のメルヴィン・ユドール(ジャック・ニコルソン)は恋愛小説家です。「暗闇の中で女は罪を告白し、男はそれを許した……」なんてセリフをぶつくさいいながら恋愛小説の原稿をタイプで打ち、そしてベストセラー作家として大成功しています。
しかし、私生活での彼は、異常な程の潔癖症で、一回の手洗いに新品の石鹸をいくつも使うわ、路上では人に触れたくないので暴言を吐き散らすわ、レストランでは自前のスプーン、フォーク以外使わないわ、・・・悪気はないのですが、自分のペースを崩せなくて、廻りの空気も読めず、他人の感情を慮ることもできない不器用な男なのです。
恋愛小説家のベストセラー作家先生にしては、その実生活にギャップありすぎです。この先生、レストランのウェイトレス、キャロル(ヘレン・ハント)に恋しているのですが、自分の小説の主人公の手練手管とは大違いで、口下手で、毒舌で、気の利いたお世辞ひとつ言えないのです。
キャロルも、メルヴィンは人を傷つける言葉を撒き散らすが悪意のないことは知っています。だからわざわざ、「私を褒めて!」って頼み込んだりするのです。
遠回りはしますが、メルヴィンは少しづつ変わろうとします。キャロルだけでなく、隣の画家が飼っていた犬の影響も大きかったようです。
映画の冒頭で、いきなりメルヴィンはその犬をダストシュートに捨ててしまいますが、ひょんなことから、その犬を預かることになり、大嫌いだったその犬との間に奇妙な友情関係が徐々に生まれたのです。名脇役を務めたワンちゃんは、ブリュッセル・グリフォンという種類でした。
言葉ではない心からの犬とのコミュニケーションを通じて、しだいにメルヴィンに優しさが芽生えます。 その相手を思いやる優しさに、作家先生としての経験を活かした言葉を添えてぎくしゃくしていたキャロルとの関係も、メルヴィンが自分の気持ちに素直になることによって修復されていきます。
メルヴィンが「私を褒めて」とのたまうキャロルに素敵な言葉をプレゼントします。
「君はどんなことでも、この世の誰よりも上手にやり遂げる。例えばスペンス(息子)への笑顔、君の頭の中にある全ての思い、そして君が口にする言葉はいつでも真摯で善意にあふれている。なのに、大抵の人間はそれを見逃している。テーブルに料理を運んでるウェイトレスの君が、実は世界最高の女だってことを。それに気づいているのは僕だけだった。それが、僕の自慢だった。嬉しかった。」
恋愛小説家としてのメルヴィンの虚像と私生活のメルヴィンの実像が、キャロルを前にして、優しさと素直さという媒体を通じて一つになり、実を結んだまことに結構で素晴らしいエンディングでした。