義理の姉から入院の際のお見舞い品としていただいた一冊です。 こうした機会がなければ読むきっかけがなかった作家だったかもしれません。
人生の哀愁漂う物語を、13編に渡って、外房の海辺の街の風景を舞台に描いていました。
宝石のような時間もありました。窮屈な現実にも追われました。まだ思い出に生きる齢でもないが、やり直せないところまで来てしまったのでしょうか。房総半島の街で自己を見失いかけ、時に夢を見、あがく、元海女の老境を描く「イン・ザ・ムーンライト」、と落魄したジャズピアニストの夢見た栄光の影を描いた「オ・グランジ・アモール」が特に印象に残りました。
スタン・ゲッツの名曲「オ・グランジ・アモーレ」のボサノバ調のシングルトーンのジャズの旋律が流れて聞こえてくるような文章には、五木寛之がいうところのポルトガル語のサウダーデ(孤愁)を味わうことができました。
千葉の外房が舞台でありながら、音楽あり、絵画あり、英国人女性が登場したり、リオッ子(カリオカ)の女性の話ありで、国際色と異国の女の旅愁も漂う、独特な「たそがれ」(トワイライト)をテーマにとった珠玉の13編でした。
この独特の雰囲気の文章に惹かれて、同じ著者の「脊梁山脈」を早速アマゾンの古本で入手しました。