小伝馬町の牢内に蠢く悲しい浮世の難事を、人情味あふれる柔らの達人青年獄医立花登がさわやかに投げ飛ばして解決していきます。 そして、小説現代に5年にわたって書き継いだ傑作シリーズが、最後の短編「別れゆく季節」で遂に完結します。 そのひとつ前の「女の部屋」も艶っぽい作品でした。
この作品は、藤沢周平氏も楽しみながら書き上げられたのではないでしょうか、著者の茶目っ気たっぷり、お色気少々の文体がまことに精妙に踊っているようです。
少しほろ苦い青春に別れを告げ、新しい旅立を前に、登もおちえもさっぱりと一皮むけた、まことに結構なエンディングでした。
藤沢周平氏のこの文章は朗読してもまことに具合の良いリズムを感じます。講釈士になったような気持ちになれます。いい時代小説はリズミカルな名文で紡がれるのですね。そういえば、吉川英治の作品は講談調のリズムで貫かれていますよね。