大好きな、ベースボールに自分の幼名、升(のぼる)にちなんで、野球(野ボール)と名付けた子規、明るくて、人好きで、集客力のある正岡子規と、一方、小難しくて、人と交わることがどちらかと言えば苦手な夏目漱石が、性格の違いを飛び越えて、 互いに相手の才を認め、相手に敬意を払い、 深い交友関係を描いた小説でした。
司馬遼太郎の「坂の上の雲」でも。子規のことはかなりのページを割いており、同郷の秋山真之との交友を幼少期から東大予備門、さらに真之が子規と進む道を異にした海軍兵学校時代まで、明治の日本の理想の青春像という形で見事に描き出してくれました。
この「ノボさん」では、明治20年、青雲の大志を抱いて松山から東京へ出てきた正岡子規ことノボさんが、東大予備門(第一高等中学校)で、金之助こと夏目漱石と出会い、子規が35歳で逝くまでの二人の邂逅と、日本近代文学の基礎を築く両巨匠の交友と青春像が切り取られています。
正岡子規は俳句、短歌といった日本の伝統の短詩を分類し、再構築し、新風を入れて中興の祖となりました。夏目漱石は、森鴎外と並ぶ文豪として、「吾輩は猫である」から「明暗」にいたる小説の名作を発表し、日本文学の未来への先駆けとなりました。
子規は結核にかかり、カリエスも病んで、母八重と妹律に支えられながらの凄まじい闘病生活も語られていますが、ノボさんの伊予弁が明るく、筆者伊集院靜の筆も子規への優しさが満ちているように感じられました。 子規と漱石の互いの心の働きにも作者の筆が及んでいるところが良かったです。